平野啓一郎さんが「分人」という概念を提唱していて、それを知ると人生のモヤモヤがすっきり整理できたりするという話を聞いたから、平野啓一郎『私とは何か――「個人」から「分人」へ』(講談社, 2012)を読んでみた。(参考文献リストなし。索引なし。) 「個人(individual)」という言葉の語源は、「分けられない」という意味だと冒頭で書いた。本書では、以上のような問題を考えるために、「分人(dividual)」という新しい単位を導入する。(p.7) かつて加藤典洋さんが、村上春樹『ねじまき鳥クロニクル』について次のように書いていたのが思い出される。 これまで文学は、少なくとも近代以降、インディビデュアル(in・dividual)、これ以上は分割できない単位としての個人を基礎として、その上にモラルの問題を形象化してきた。(中略)しかしここで村上は、(中略)、個人がなくなる先の物語を仮構すること