世界最古の長編小説の一つと言われる『源氏物語』を、米紙「ニューヨーク・タイムズ」の東京支局長モトコ・リッチが読んでみたところ、現代日本が抱える諸問題と響き合っていることに驚いたという。 2024年のNHK大河ドラマの主人公でもある作者・紫式部が1000年以上も前に著したこの物語の凄さを、彼女はどこに見出したのか──。 1000年前と変わらぬ母の想い 私が『源氏物語』という、1000年以上も昔に宮仕えをしていた一人の女官が著した、1300ページにわたる大著を読んでいたとき、娘は高校生活最後の年で、あるいはそれがきっかけだったのかもしれない。物語のある重要な場面にさしかかり、そこに詠まれた数行の和歌に、私はほとんど狼狽してしまっていた。 主人公・光源氏はたくさんいる妻のうちの一人、明石の君とのあいだに生まれた娘を宮中で育てるべく、彼女に娘を手放し、別の女のもとに預けるよう説得する。明石の君は、