「大きいカツオをさばくのは父と兄だけ。まだ任せてもらえないんです」 鹿児島県枕崎市の宮下鰹(かつお)節店の宮下誠崇(ともたか)さん(33)が少し照れた。「大きいカツオ」は数少ない本枯節(ほんがれぶし)の原料になる5~7キロの物だ。「頭の落とし方、腹皮の処理、太っているのは深めに刃を入れるとか、形をそろえる包丁の入れ方に微妙なこつがある」。父親の誠さん(64)が説明する。 工場の水槽には1週間ほど前に鹿児島港(鹿児島市)に水揚げされ、数日中に加工するカツオが入っている。「3キロ以下だとパック詰めの削り節用です。ただ近海物だから味は間違いないですよ」 かつお節の原料となるカツオは近年、南洋での巻き網漁の冷凍物が大半を占めるが、誠さんは近海の一本釣り物にこだわる。そこには科学的な理由がある。 巻き網漁では、捕獲されたカツオが網の中で暴れる。そのため死んだ後にうま味成分に変わる体内のエネルギー物質