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「悔しい!あなた、悔しい!」 母は泣いていた。大粒の涙が開いた帳簿と事務机の上にぼたぼたと落ちた。... 「悔しい!あなた、悔しい!」 母は泣いていた。大粒の涙が開いた帳簿と事務机の上にぼたぼたと落ちた。机の上には大きなガラス板が載っていて、その下にはカレンダーや取引先の電話番号簿が敷かれていた。いまやガラスは涙の海だった。薄暗い作業場から父と母のいる事務所をのぞいてしまった僕は、まだ小学校六年生。母は見栄張りで勝ち気な割には涙もろかった。僕が悪さをするたび泣かれてオロオロしたものだ。が、さすがにこんな剣幕の母親を見るのは初めてだった。 「なんでなん?なんでこんな目にあうん?」泣きじゃくり、母は訴えた 「しゃあないがな」と父は慰める。 「だってあなた。あの人たちが私らに何をしてくれたん?!何してくれる言うのん?」「何にもしてくれへんわなぁ」気のない父の答。まるで他人事だ。 「あんなにぎょうさん(沢山)のお金!どんだけ苦労して稼いだかも知らんとぉぉぉ」 母はまた号泣した。子供心でも、いま母親が誰