社説：大江健三郎さん死去 人間性の回復追い求めた | 毎日新聞

人間らしさとは何か。文学と行動を通して問い続けた。 戦後日本を代表する作家の大江健三郎さんが88歳で亡くなった。 1994年、川端康成に次ぐ日本人2人目のノーベル文学賞受賞者となった。 川端は日本の伝統的な美を描いて評価された。一方、大江さんは「魂の救済」をテーマに現代人の痛みに向き合い、日本文学を世界文学の高みに引き上げた。 自身の苦悩から逃げることなく、それを起点に社会や国家、世界が抱える問題を照射してきた。 「文学を変え、人生を変えた」のが28歳の時、障害のある長男光（ひかり）さんが生まれたことだ。 翌年に発表された「個人的な体験」で、障害のある子を持つ父親の心の変容を描いた。共生を模索する旅路の始まりである。 日本の近代化の歩みを背景にした「万延元年のフットボール」には、安保闘争や高度経済成長の中でもがく人々の姿が投影された。 その知を文学だけでなく、自らの行動に結びつけ、社会を変