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泉鏡花 草迷宮
向うの小沢に蛇(じゃ)が立って、 八幡(はちまん)長者の、おと娘、 よくも立ったり、巧んだり。 手に... 向うの小沢に蛇(じゃ)が立って、 八幡(はちまん)長者の、おと娘、 よくも立ったり、巧んだり。 手には二本の珠(たま)を持ち、 足には黄金(こがね)の靴を穿(は)き、 ああよべ、こうよべと云いながら、 山くれ野くれ行ったれば………… 一 三浦の大崩壊(おおくずれ)を、魔所だと云う。 葉山一帯の海岸を屏風(びょうぶ)で劃(くぎ)った、桜山の裾(すそ)が、見も馴(な)れぬ獣(けもの)のごとく、洋(わだつみ)へ躍込んだ、一方は長者園の浜で、逗子(ずし)から森戸、葉山をかけて、夏向き海水浴の時分(ころ)、人死(ひとじに)のあるのは、この辺ではここが多い。 一夏激(はげし)い暑さに、雲の峰も焼いた霰(あられ)のように小さく焦げて、ぱちぱちと音がして、火の粉になって覆(こぼ)れそうな日盛(ひざかり)に、これから湧(わ)いて出て人間になろうと思われる裸体(はだか)の男女が、入交(いりまじ)りに波に浮んで