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芥川龍之介 トロッコ
小田原熱海(あたみ)間に、軽便鉄道敷設(ふせつ)の工事が始まったのは、良平(りょうへい)の八つの... 小田原熱海(あたみ)間に、軽便鉄道敷設(ふせつ)の工事が始まったのは、良平(りょうへい)の八つの年だった。良平は毎日村外(はず)れへ、その工事を見物に行った。工事を――といったところが、唯(ただ)トロッコで土を運搬する――それが面白さに見に行ったのである。 トロッコの上には土工が二人、土を積んだ後(うしろ)に佇(たたず)んでいる。トロッコは山を下(くだ)るのだから、人手を借りずに走って来る。煽(あお)るように車台が動いたり、土工の袢天(はんてん)の裾(すそ)がひらついたり、細い線路がしなったり――良平はそんなけしきを眺(なが)めながら、土工になりたいと思う事がある。せめては一度でも土工と一しょに、トロッコへ乗りたいと思う事もある。トロッコは村外れの平地へ来ると、自然と其処(そこ)に止まってしまう。と同時に土工たちは、身軽にトロッコを飛び降りるが早いか、その線路の終点へ車の土をぶちまける。そ