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「言語の死」という概念に疑義を突きつける稀代の書
【書評】『エコラリアス 言語の忘却について』/ダニエル・ヘラー=ローゼン・著/関口涼子・訳/みす... 【書評】『エコラリアス 言語の忘却について』/ダニエル・ヘラー=ローゼン・著/関口涼子・訳/みすず書房/4600円+税 【評者】鴻巣友季子(翻訳家) 言語の忘却と記憶の影について書かれた独創的な言語哲学の書だ。喃語(なんご)期の乳児はあらゆる音声を発音する能力があるという。それが母語の音声システムに適応していくにつれ、母語にある音しか発音できなくなる。つまり、人間は発話能力を忘れることで、言語習得を開始するのだ──本書はそんな定義から始まる。しかしその記憶は完全に消え去るのではない。 十か国語に通じた著者は、言語学、哲学、文学、神学、心理学など広い領域の文献を渉猟しながら、ヘブライ語、ギリシャ語、ラテン語、ペルシャ語、アラビア語などの古典言語から、ある谷の方言やコーンウォール語などのマイナーな言語の間を自在に行き来し、ひとつの言語には別な言語の「痕跡」が「谺(こだま)」として残っていると主