阿蘇の絶景、「秋は夕暮れ」そして「爪痕のような月」：朝日新聞デジタル

熊本県阿蘇地方は10月半ばになって、阿蘇五岳や外輪山の牧野にススキの穂が揺れる季節を迎えた。晴れた日の夕暮れ、阿蘇山上に向かう登山道路では米塚（954メートル）のはるか西の空に真っ赤な太陽が沈み、濃紺に染まる空には白い三日月が浮かんだ。 たそがれ時の三日月は、芥川龍之介の短編小説「杜子春」を思い起こさせる。華やかな中国・唐の都洛陽、困窮した主人公がぼんやりながめる空には三日月が「爪の痕かと思う程（ほど）、かすかに白く浮かんでいる」。主人公が夢のような豊かな暮らしと没落を繰り返し、悲惨な幻から覚める結末まで、「白い月」は繰り返し登場。物語のあらすじを忘れても「爪痕のような三日月」は強く印象に残っているという人が少なくない。 杜子春は春の夕暮れだが、やはり「秋は夕暮れ」というのが平安時代の清少納言。随筆「枕草子」で四季折々の趣ある情景として「春はあけぼの」に「夏は夜」「秋は夕暮れ」と続けた。そ