タグ

ブックマーク / book.asahi.com (91)

  • ジーン・ウルフ「ピース」書評 なんと魅惑的な曖昧と不安定|好書好日

    ピース [著]ジーン・ウルフ ジーン・ウルフは、まったくもって一筋縄でいかない作家である。日でもマニアックな人気を誇る彼は、あえてジャンル分けをするならSF/ファンタジーの小説家ということになるのだろうが、フィクションに、生半可な理解や納得よりも謎と混乱を求める、全てのすれっからしの読者に、過剰なまでの満足を与えてくれる。『ピース』は、ウルフが1975年に発表した比較的初期の長編小説である。 語り手の「ぼく」は、オールデン・デニス・ウィア、アメリカ中西部の片田舎の町キャシオンズヴィル(ちなみに架空の地名)に独居する老人である。この土地の旧家の最後の末裔(まつえい)であり、裕福な実業家として人生をまっとうし、すでに引退しているらしい彼は、広大な屋敷内をうろつきながら、幼年時代から現在までの自らの過去を、とりとめもなく、むやみと断片的に、だが濃密に回想する。少年の頃に同居していた美人の叔母オ

    ジーン・ウルフ「ピース」書評 なんと魅惑的な曖昧と不安定|好書好日
  • 本の記事 : シャモワゾー×大江健三郎 多様性を語る - 中村真理子 | BOOK.asahi.com:朝日新聞社の書評サイト

    フランス語圏のクレオール文学を代表するパトリック・シャモワゾーが来日し、大江健三郎と対談した。フランス大使館と紀伊国屋書店が共催するイベントで、司会は堀江敏幸。3人の作家は「クレオール」という言葉を通して多様性の大切さを語り合った。 シャモワゾーは1953年、カリブ海のフランス領マルティニクに生まれた。植民地支配の下、アフリカから連れてこられた黒人の間で生まれた言葉や文化を意味するクレオール。その語りや伝承を取り込んだ長編『テキサコ』でゴンクール賞を受け、『カリブ海偽典』などの作品が世界的に評価されている。 大江とは今年3月、フランスで出会った。面識はなかったが、シャモワゾーの声を聞いて「この語りの文体を知っている」と思った、と大江は話し始めた。海外の新しい文体に出会うと1ページ書き写して覚えてきた。10年前の一つが『テキサコ』。「普遍的というのではない、個性そのものなのに深く伝わる。彼の

    本の記事 : シャモワゾー×大江健三郎 多様性を語る - 中村真理子 | BOOK.asahi.com:朝日新聞社の書評サイト
  • 『いま読むペロー「昔話」』書評 グリムと異なり大人に向けて|好書好日

    いま読むペロー「昔話」 [訳・解説]工藤庸子 グリムの童話「赤頭巾」では、少女がお婆(ばあ)さんに化けた狼(おおかみ)にわれたあと、猟師が狼を撃って腹から少女を助け出すことになっている。しかし、ペローの昔話では、少女はたんにわれてしまうだけである。坂口安吾は「文学のふるさと」(昭和16年)というエッセーで、この結末に衝撃を受けたことを記している。童話にあるようなモラルがここにはない。読む者は「突き放される」。しかし、このように突き放されるところに、「文学のふるさと」があるのだ、という。 以来、私はペローの昔話が気になりいつか調べてみようと思っていたが、その機会がなかった。新訳と詳細な解説が付された書は、そのような疑問に答えてくれるものであった。グリム兄弟は19世紀初期ドイツのロマン主義者で、民話を児童文学として書きなおした。一方、ペローは17世紀フランス絶対王制の官僚であった。彼はこ

    『いま読むペロー「昔話」』書評 グリムと異なり大人に向けて|好書好日
  • http://book.asahi.com/ebook/master/2013112100003.html?ref=rss2

    http://book.asahi.com/ebook/master/2013112100003.html?ref=rss2
  • 「生理用品の社会史」書評 意識変えた使い捨てナプキン|好書好日

    生理用品の社会史―タブーから一大ビジネスへ [著]田中ひかる 以前に生理用ナプキンを燃やそうとしたことがある。百円ライターを壊しても火すらつかなかった。高分子吸収体って何者なんだ。そしてこういうものがなかった時代、女たちは毎月どうやって経血の処置をしてきたんだろう。 あまり公に語られてこなかった生理用品の歴史。類書も少なく、常々知りたいと思っていた。 古代から太平洋戦争までの長い期間、経血処置に何がどう使われてきたか、不浄とみなされ、タブー扱いされていたことなどが書かれた前半も興味深いが、白眉(はくび)は第3章、使い捨てナプキンを日人の体形に合わせて開発、商品化したアンネ社の登場。 1961年、当時口にするのも憚(はばか)られた月経を「アンネ」と呼ぶ提案と、水洗トイレに流せる使い捨て紙ナプキンは、多くの女たちに衝撃と喜びをもって、受け入れられた。しかも快適な経血処置を提供したいという信念

    「生理用品の社会史」書評 意識変えた使い捨てナプキン|好書好日
  • コラム別に読む : 真珠の世界史 [著]山田篤美 - 青木るえか | BOOK.asahi.com:朝日新聞社の書評サイト

    ■ミキモトの真珠はやっぱりすごい 真珠が古来そんなに珍重されてきたとは知らなんだ。考えてみれば、ダイヤを掘り出して磨くにはそれなりの設備が必要だが大昔はそんなものはなかっただろうし、真珠は貝をあければ中から光る玉が出てくるわけで、たいへんな宝物だったことだろう。 書の口絵に、世界最古の真珠の写真が載っている。福井の貝塚から出たという、5500年前の真珠である。それだけ時を経ているので、真珠というよりは白い雛アラレみたいなことになっているが、当時はさぞや輝いて人々を魅了したことでしょう。でも貝塚ってことは捨てられてたのか。この真珠は「おそらくドブガイの真珠」と説明にある。ドブガイって……。 メソポタミアでは真珠は「魚の眼」と呼ばれていた、というのも面白い。アジの塩焼きをべたあと、目玉をほじくりだすと丸くて白くて硬くて真珠みたいだなあと思ったものだ。マルゲリータ、というのは真珠という意味だ

    コラム別に読む : 真珠の世界史 [著]山田篤美 - 青木るえか | BOOK.asahi.com:朝日新聞社の書評サイト
  • 本の記事 : 「風流夢譚」、電子化で解禁 半世紀前、テロ誘発した問題作 | BOOK.asahi.com:朝日新聞社の書評サイト

    テロ事件(嶋中事件)のあと記者会見に現れた深沢七郎。「私が一番の責任者だから……」と語って涙を流した=1961年2月、東京 深沢七郎(1914~87)の小説「風流夢譚(むたん)」――半世紀前に月刊誌で発表されたがテロ事件の引き金となり、作者が書籍化を封印した問題作だ。それが今、電子書籍の“単行”として入手可能になっている。 ■発行者「現代の状況に重ねられる」 電子書籍『風流夢譚』を発行したのは志木電子書籍の京谷六二(きょうやむに)代表(51)。一昨年11月の刊行後、口コミを中心に、月に30部ほどのペースで売れ続けているという。 月刊誌「中央公論」1960年12月号に、風流夢譚は掲載された。主人公は時間の揺らぐ奇怪な「夢」の中で「革命」に遭遇し、「天皇」や「皇太子」らが「処刑」された情景を見る。その身体からはなぜか「金属性の音」が響き、やがて「辞世の御製(歌)」をめぐる滑稽な解釈談義が始ま

    本の記事 : 「風流夢譚」、電子化で解禁 半世紀前、テロ誘発した問題作 | BOOK.asahi.com:朝日新聞社の書評サイト
  • 『「少女小説」の生成』書評 規範と逸脱の麗しき輪舞|好書好日

    「少女小説」の生成―ジェンダー・ポリティクスの世紀 [著] 久米依子 近代日の「少女小説」。このジャンルの独自性は、日の近代化と文化表象の特異性を裏書きしている。少女小説が登場したのは、明治30年代のこと。その系譜は近年のコバルト文庫に至るまで、百年にもわたる歴史をもつ。だがその内容や領域に一貫性はなく、ときに相反する特性をも包摂する。これは、いわゆる欧米の「家庭小説」などとも一線を画すと筆者は指摘する。 明治後期、いわゆる少女向け読みものとしての少女小説が誕生。だが同時期書かれた田山花袋「少女病」等、青年と若い娘の恋愛小説もまた、少女小説と呼ばれていた。無垢(むく)なる性愛対象という「少女」は、後発近代化国・日の成人男性にとって、抑圧された自らの自然を回復するための救世主でもあった。このあり方は、その後次第に教育的配慮とは齟齬(そご)をきたす。 近代教育における少女への要請もまた、

    『「少女小説」の生成』書評 規範と逸脱の麗しき輪舞|好書好日
  • 書評・最新書評 : イスタンブールの群狼 [著]ジェイソン・グッドウィン | BOOK.asahi.com:朝日新聞社の書評サイト

  • 「海を渡った人類の遥かな歴史」書評 冒険性を否定する、人と海との親密さ|好書好日

    海を渡った人類の遙かな歴史 古代海洋民の航海 (河出文庫) 著者:B.フェイガン 出版社:河出書房新社 ジャンル:一般 海を渡った人類の遥かな歴史―名もなき古代の海洋民はいかに航海したのか [著]ブライアン・フェイガン 人間の住む世界から遠く離れた北極の氷の中や太平洋に浮かぶ孤島を訪ねた時、いつも考えることがあった。はるか昔、何千、何万年という昔に、海図も六分儀もないのに、ここまで来た人たちがいたのだ。水平線のはるか向こうを目指した古代の人たちの胸の内に思いをはせた時、私はいつも心が震えるような思いがした。 陸地を離れて海へ出る。人類がアフリカを出て世界へ拡散していく歴史の中で、それは確かに最も想像力を刺激する一歩だった。書はそのことについて書かれただ。歴史の教科書に太字で記される華々しい海戦や探検家の航海について触れたものではない。天体を見て遠洋に漕(こ)ぎ出したポリネシア人や、大三

    「海を渡った人類の遥かな歴史」書評 冒険性を否定する、人と海との親密さ|好書好日
  • 「女子プロレスラーの身体とジェンダー」書評 「強さ」をめぐる問題提起|好書好日

    女子プロレスラーの身体とジェンダー 規範的「女らしさ」を超えて 著者:合場 敬子 出版社:明石書店 ジャンル:社会・時事・政治・行政 女子プロレスラーの身体とジェンダー 規範的「女らしさ」を超えて [著]合場敬子 女らしさや美の規範。これらは、今なお多くの女性を拘束する見えない鎖である。とりわけ、「強さ」の問題は複雑だ。近代社会は男性には身体的な強さを奨励し、他方で女性の身体性にはむしろ抑圧的に作用してきた。近代スポーツが合理的な暴力性発揮を主として男性だけに許容してきたことは、この証左である。 一方、昨今では女性もまた強くあることが奨励される。だがその実態は、あくまでも社会が容認する範囲に留(とど)められる。女性が身体的強さを高め、そこから逸脱したらどうなるのか。書はその先端事例として女子プロレスラーを取り上げ、検証している。 一見突飛なこの題材は、この社会で女性が強さを目指す際に生じ

    「女子プロレスラーの身体とジェンダー」書評 「強さ」をめぐる問題提起|好書好日
  • 「立身出世と下半身」書評 「性的充溢=男らしさ」の矛盾|好書好日

    立身出世と下半身―男子学生の性的身体の管理の歴史 [著]澁谷知美 「1890〜1940年代において、男子学生の性的身体は、教育者や医者らによって、どのように管理されたのか」を、資料分析や当事者へのアンケートを通して論考した。 男子学生たちは、「性的なことにかまけている場合ではない」と有形無形の圧力を受けてきた。なぜかまけてはいけないかというと、勉学がおろそかになり、国家に有用な人材に育たないからだ。恋や性的行いは、立身出世を果たしてから思う存分すればいいのである。 そんな無茶(むちゃ)な。しかし大人は(女遊びしている自身を棚に上げ)、「花柳界に足を踏み入れるな」「自慰をするな」と学生たちに要求する。しまいには、高等学校などの入試において、身体測定とともに性病検査(通称「M検」)が行われる。全裸の男子学生の性器に、医者などがじかに触れて、性病にかかっていないかチェックするのだ。余計なお世話

    「立身出世と下半身」書評 「性的充溢=男らしさ」の矛盾|好書好日
  • 書評・最新書評 : 暴力はどこからきたか-人間性の起源を探る [著]山極寿一 | BOOK.asahi.com:朝日新聞社の書評サイト

    ■相手との共存を模索する類人猿たち 戦争にいたるまでの人間の攻撃性に関しては、コンラート・ローレンツによる有力な説があった。動物の場合、攻撃性とその抑止機構にバランスがとれていたのに、人間の場合、武器の出現のために、それができなくなったというものである。また、この考えは、人間が狩猟生活から武器を発展させ、それが同類への攻撃に及んだという説ともつながっている。 しかし、このような説は、近年の動物行動学や人類学の研究のなかでくつがえされた。たとえば、動物の同種間の殺害が多く報告されているし、狩猟民は一般に争いを避けることが明らかになっている。狩猟と戦争は別だ。戦争は、定住と農耕以後の現象なのである。さらに、最近では、原始人は狩猟者というよりも、逆に捕される者であり、その体験を通して協働する体制を作るようになったという説もある(ドナ・ハートとロバート・サスマン『ヒトはべられて進化した』)。

    書評・最新書評 : 暴力はどこからきたか-人間性の起源を探る [著]山極寿一 | BOOK.asahi.com:朝日新聞社の書評サイト
  • 「Because I am a Girl―わたしは女の子だから」書評 開発途上国の厳しい現実|好書好日

    Because I am a Girl わたしは女の子だから 著者:ティム・ブッチャー 出版社:英治出版 ジャンル:小説・文学 Because I am a Girl―わたしは女の子だから [著]アーヴィン・ウェルシュほか 青空をバックにいろんな肌の色の女の子たちが佇(たたず)んでいる表紙カバーを見て、可愛らしい声が詰まった短編集なのかな、と手に取った。でもここには、女の子というだけで差別を受けてしまう開発途上国のハードな現実が描かれている。「プラン」というNGOのキャンペーンに協力した世界各国の作家たちが現地を見たうえで書いた作品のアンソロジー。翻訳した角田光代さんも「プラン」の招きでマリやインドに行っている。 女の子たちの現実は想像以上に厳しい。男性社会、宗教の壁、貧困の連鎖。十代前半で妊娠し、教育の機会を奪われてしまう子も多い。どうやって人権を教え、自尊感情を持たせてあげたらいいのだ

    「Because I am a Girl―わたしは女の子だから」書評 開発途上国の厳しい現実|好書好日
  • 本の記事 : 〈本の舞台裏〉編集者が作る書店棚 - 星野学 | BOOK.asahi.com:朝日新聞社の書評サイト

    書店の棚にどんなをどう並べるか。そんな書店員の「聖域」を編集者に任せる試みが東京のジュンク堂書店池袋店で続く。1階エレベーター脇にある「愛書家の楽園」と題した棚がそれ。専門書を手がける編集者が月替わりでひねりのきいたテーマを考え、自社出版物にこだわらず紹介する。 9日まで開催中のテーマは「目からうろこの音楽論」。スモールの「ミュージッキング」といった理論書から「中原昌也作業日誌」のような通好みのまで、ツボを押さえた大衆音楽寄りの27点が並ぶ。選書したみすず書房の島原裕司さん(55)は「革新性を軸に選んだらポピュラー関連中心になった。書棚をつくるクリエーティブな喜びを実感した」。 「愛書家の楽園」は2011年12月に始まった。同年秋に休刊した業界紙「出版ダイジェスト」の企画を引き継ぐ形で、旧知の店員や編集者が議論し、「教養としてのオカルト」「文学×漫画」といったテーマで続けてきた。 店

    本の記事 : 〈本の舞台裏〉編集者が作る書店棚 - 星野学 | BOOK.asahi.com:朝日新聞社の書評サイト
  • 渡部直己「日本小説技術史」書評 異次元的な体験 作品の核心つく|好書好日

    小説技術史 [著]渡部直己 坪内逍遥『小説神髄』から横光利一『純粋小説論』まで、半世紀にわたる文学作品を「技術」というテーマで語り抜く。つまり書は、これまで“何が語られてきたか”のみを扱ってきた近代文学史に対し、“どう語られてきたか”を徹底して読みとる。「技術以外の何が小説にあるのか?」と、冒頭から我々を挑発しながら。 まず著者は、逍遥がその前近代性を批判した曲亭馬琴の小説制作術「稗史(はいし)七則」のうちの「偸聞(たちきき)」から話を始める。歌舞伎や黄表紙、いやそれどころか逍遥自身の小説にさえ「偸聞」は横溢(おういつ)する。我々も時代劇などで観た「話は全部、そのフスマの陰で聞かせてもらった」というパターンだ。 むろんここには、同じ話を繰り返さずにすませるための「省略」という技術的要請がある。だが、著者はその先にスリリングな小説論を用意している。作品は読者によって読まれているのだから

    渡部直己「日本小説技術史」書評 異次元的な体験 作品の核心つく|好書好日
  • 「踊ってはいけない国、日本」書評 人類的行為を抑圧する不均衡|好書好日

    踊ってはいけない国、日 風営法問題と過剰規制される社会 著者:磯部 涼 出版社:河出書房新社 ジャンル:社会・時事・政治・行政 「無許可で客を踊らせ」た罪で摘発されるクラブ、違法ダウンロード刑罰化、生活保護受給バッシング、レバ刺し禁止、消えゆく歓楽街…。誰が誰の首を絞めているのか? 過剰規制されゆ… 踊ってはいけない国、日 風営法問題と過剰規制される社会 [編著]磯部涼 一般に風営法と呼ばれる法律によって、特にここ数年、大阪を中心としてクラブが摘発され続けている。主に若者を顧客として持ち、DJによる大音響での音楽再生によって踊りを楽しむ方のクラブだ。 これまでも“午前零時、条例によっては午前一時を過ぎて客を踊らせていた”罪での摘発はあったが、運用は比較的穏やかだった。それが今、どういうわけか一気に厳格化されつつある。 なぜ踊ってはいけないか。法の運用に恣意(しい)性はないか。表現の自由

    「踊ってはいけない国、日本」書評 人類的行為を抑圧する不均衡|好書好日
  • 「中国と茶碗と日本と」書評 陶磁の謎解き、スリリングに|好書好日

    中国と茶碗と日と [著]彭丹 著者は着物を着て茶をたて、能を舞い、幸田露伴を読み、寺に出入りし、そして日語で小説も書く日学者だ。欧米人の日学者には、伝統文化に身体ごと入り込んでゆく人々が多いが、アジアの日学者では、ごく少数派である。 書は茶の湯の陶磁器を素材にしているが、専門家しか分からない類の専門書ではない。著者が茶の湯の体験のなかで驚き、感動し、謎に思ったそのひとつひとつを解明しようとしている。その目の付け所と解明の方法が、ただごとではない。 日の国宝になっている陶磁器は十四点あるが、そのなかの半数以上が中国製だという。茶の湯の茶碗(ちゃわん)は八点だが、そのうち五点は中国のものなのだ。そこで著者は謎を抱える。なぜ外国製のものが国宝になるのだろうか、と。ちなみに、現存する曜変天目茶碗三点はすべて日にあり、中国では全く知られていない。 中国では曜変(窯変〈ようへん〉)天目

    「中国と茶碗と日本と」書評 陶磁の謎解き、スリリングに|好書好日
  • 本の記事 : 柳田国男没後50年、鶴見太郎寄稿 民俗学者の輪郭定めた大正時代 - 鶴見太郎 | BOOK.asahi.com:朝日新聞社の書評サイト

    今年の8月8日は柳田国男が死去して50年になる。ちょうど大正100年となる今夏、柳田にとって、大正時代とはどのように位置付けられるのだろうか。奇(く)しくも柳田の誕生日にあたる日(7月31日)は、そのことを考えるのに相応(ふさわ)しい。 1919(大正8)年暮れ、貴族院書記官長を辞任することで柳田はひとまず、その官歴を終える。しかし時間的な制約がなくなったこと以外に、在野の人となることで彼の学問が変容したかといえば、それは殆(ほとん)どなかったといっていい。さかのぼってみるならば、柳田の民俗学とは、自身のキャリアを抛(なげう)つ程度のことでは微動だにしない力を内に秘めていた。 民俗学そのものに限ってみても、大正とは柳田にとって多くの曲折を経た時期であった。当初、列島先住民説の傍証として掲げていた「山人論」が南方熊楠との論争によって後退し、「毛坊主考」「巫女(みこ)考」等の論考に代表される

    本の記事 : 柳田国男没後50年、鶴見太郎寄稿 民俗学者の輪郭定めた大正時代 - 鶴見太郎 | BOOK.asahi.com:朝日新聞社の書評サイト
  • 「時間はだれも待ってくれない―21世紀東欧SF・ファンタスチカ傑作集」書評 現実と非現実の曖昧な境界で|好書好日

    時間はだれも待ってくれない 21世紀東欧SF・ファンタスチカ傑作集 著者:高野 史緒 出版社:東京創元社 ジャンル:小説・文学 二十一世紀に入ってからの東欧SF・ファンタスチカの精華、十か国十二作品を、新進を含む各国語の専門家が精選して訳出した日オリジナル編集による傑作集。【「BOOK」データベ… 時間はだれも待ってくれない―21世紀東欧SF・ファンタスチカ傑作集 [編]高野史緒 チェコの首都、プラハに数日滞在した折、ある日研究者に「東欧」ということばを漏らしたところ、すぐさまこう遮られた。「いや、私たちは中欧と呼んでいます」。ベルリンの壁が崩壊し、東西冷戦が終結した現在、ソ連の衛星国として社会主義体制を敷いていた国々は、もう「東側」ではないのだ。 しかし、そうした歴史の中で育まれた文学は、西欧とは異なる独特の雰囲気をまとっている。カフカ、チャペック、スタニスワフ・レム、と名前を挙げて

    「時間はだれも待ってくれない―21世紀東欧SF・ファンタスチカ傑作集」書評 現実と非現実の曖昧な境界で|好書好日