初めてライブでAlfred Beach Sandal(ビーサン)こと北里彰久の歌声を聴いた衝撃を忘れることができない。それはただ単に美しい声、優れたピッチコントロールといった言葉で片付けてしまうことを許さない、天国と地獄の間をたゆたうような繊細さと凄みがあった。初めて本名でリリースされたニュー・アルバム『Tones』は、そんな彼の稀有な歌声とソングライターとしての才能を、これまでで最も深く堪能できる作品となっている。 ビーサン名義での前作『Unknown Moments』(2015年)やHALFBYやSTUTSとの共作において追及してきたスペクタクルなサウンドプロダクションや、R&B、ブレイクビーツとの相性の良さからすると、今作の音像はやや意外なほどシンプル。北里自身による演奏をベースとした、まるで素描画のような清廉さを漂わせるアコースティック主体の楽曲で統一されている。しかしその一聴する