最近,奈良へ行く機会があったので,岡潔のお墓によってみた。岡潔というのは伝説の数学者であり,多変数複素関数論の研究で人間業とは思えない仕事をした人である。1960年代には多くの本を著したので[1] 年配の人は記憶にあるだろうが, 一般には知るひとは少ないかもしれない。しかし,ひとたびその数学に接すると人を魅了してやまないものがある。複素関数論のエッセンスは解析関数の定義にある。よく知られているように一変数複素関数に対しては解析接続の原理により関数の定義域を広げていくことができる。それに対し二変数以上の多変数の関数においてはその関数が正則であるような領域を勝手に決める事ができないのである。多変数複素関数論における正則な領域の問題は,一変数の複素関数とは全く様相が異なっている。この正則領域の問題は20世紀の初め頃に認識され出したが,あまりに難しいために岡潔のためにとっておかれたのである。 岡潔