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ブックマーク / honz.jp (330)

  • 2011-2024 この13年間における最高の一冊 - HONZ

    2011年7月15日にオープンしたノンフィクション書評サイトHONZ。日2024年7月15日をもちまして13年間のサイト運営に終止符を打つこととなりました。 2011年の東日大震災から、記憶に新しいコロナ禍まで。はたまたFacebookの時代からChatGPTの到来まで。その間に紹介してきた記事の総数は6105。 発売3ヶ月以内の新刊ノンフィクションという条件のもと、数々のおすすめを紹介する中で、様々な出会いに恵まれました。信じられないような登場人物たち、それを軽やかなエンターテイメントのように伝える著者の方たち、その裏側で悪戦苦闘を繰り広げていたであろう版元や翻訳者の皆さま。さらに読者へ届ける取次会社や書店員の皆さま、そしてHONZを愛してくださったすべての皆さま、当にありがとうございました。 サイトを閉じることになった理由に、明快なものは特にありません。こんなサイトがあったら

    2011-2024 この13年間における最高の一冊 - HONZ
  • 『隆明だもの』父親は「戦後最大の思想家」 - HONZ

    全集は月報が面白い。月報とは、全集の各巻が刊行されるごとに差しはさまれる小冊子のこと。ようするに附録である。著者ゆかりの人物がエッセイでとっておきのエピソードを明かしていたり、著者の素顔について語られた座談会があったり、附録とはいえ内容は充実している。文学研究者のあいだでも、月報は作家の人となりを知ることができる貴重な資料とされる。講談社文芸文庫には月報だけを集めたラインナップもあるほどだ。 書は『吉隆明全集』(晶文社)の月報の連載をもとにしている。著者は吉家の長女で、漫画家・エッセイストのハルノ宵子。吉家は父・隆明、母・和子、長女・多子(さわこ:ハルノ宵子)、次女・真秀子(まほこ:吉ばなな)の4人家族で、書には、ばななとの姉妹対談もおさめられている。 吉隆明(1924年-2012年)といえば、戦後思想界の巨人として知られる。とくに団塊の世代には神のように崇める人が多い。そん

    『隆明だもの』父親は「戦後最大の思想家」 - HONZ
  • 『地球の変動はどこまで宇宙で解明できるか』地球環境を知るにはまず太陽を見よ! - HONZ

    わが国屈指の太陽物理学者が、太陽の活動が地球環境にどのような影響を及ぼすかを論じた入門書である。「宇宙気候学」を専門とする著者は、宇宙に目を向けながら過去から未来までの環境について、写真や図表をふんだんに使いながら丁寧に読み解いてゆく。 サブタイトルに「太陽活動から読み解く地球の過去・現在・未来」とあるように、太陽系の中心にある太陽は地球環境のすべてをコントロールしているからだ。なお書は第31回講談社科学出版賞受賞作でもある。 少し基から述べておこう。太陽系とは、太陽のまわりを回っている天体の集合のことを言う。中心には太陽があり8個の主要な惑星が太陽の巨大な引力のもとに秩序正しく天空を運行している。 太陽系では太陽だけが自ら光り(恒星)、膨大なエネルギーを放出している。それ以外の星はすべて、太陽の発するエネルギーを受ける星として、太陽光を反射して宇宙空間で輝いている(惑星)。 太陽系を

    『地球の変動はどこまで宇宙で解明できるか』地球環境を知るにはまず太陽を見よ! - HONZ
  • 日本の競輪、その特殊性と、だからこその魅力についてを英国人記者が語る──『KEIRIN: 車輪の上のサムライ・ワールド』 - HONZ

    の競輪、その特殊性と、だからこその魅力についてを英国人記者が語る──『KEIRIN: 車輪の上のサムライ・ワールド』 この『KEIRIN: 車輪の上のサムライ・ワールド』は、英国人記者が語る日の競輪論である。日でどのように競輪が生まれ、育ち、危機を乗り越え、そして日ならではの独特な魅力はどこにあるのか、それを一冊を通して語り尽くしていく。 それにしても、なぜ英国人記者が日の競輪を語っているんだと疑問に思うかもしれない。その理由は簡単で、著者のジャスティン・マッカリーは日研究で修士号を取得し、読売新聞で編集者や記者として活躍。その後ガーディアンに入社し日特派員として活動する、日在住歴が30年にも及び、同時に競輪の熱狂的ファンだからだ。 書の「はじめに」は2017年に平塚競輪場で行われた日競輪最高峰のレースKEIRINグランプリの描写からはじまるが、その熱量ある文章は競輪

    日本の競輪、その特殊性と、だからこその魅力についてを英国人記者が語る──『KEIRIN: 車輪の上のサムライ・ワールド』 - HONZ
  • 『奇跡のフォント 教科書が読めない子どもを知って  ーUDデジタル教科書体 開発物語』書体デザイナー、渾身のドキュメント! - HONZ

    『奇跡のフォント 教科書が読めない子どもを知って  ーUDデジタル教科書体 開発物語』書体デザイナー、渾身のドキュメント! 「ディスレクシア(発達性読み書き障害)」という障害があることを知ったのは、ほんの数年前のことだ。トム・クルーズがこの学習障害で、台を読むことが出来ず、マネージャーに読んでもらって暗記する、と聞いたときには、そんなことがあるのかと驚いた。 文字をすばやく、正しく、疲れずに読むことに困難のある人を言い、そのメカニズムは完全に解明されていないという。 この障害は日人にも多く、日語話者の5~8%存在するという報告がされているという。知能レベルや知識の欠如に問題はなくても、会話を文字にすることや文字を読み上げることに大きな苦労を強いられるため、「やる気のない子」「読書が嫌いな子」などのレッテルを貼られがちだ。 さらに文字を読むことが困難な人には、発達障害やダウン症、色覚異

    『奇跡のフォント 教科書が読めない子どもを知って  ーUDデジタル教科書体 開発物語』書体デザイナー、渾身のドキュメント! - HONZ
  • 『理数探究の考え方』「理数探究」は先の人生で必ず活きる! - HONZ

    今から3年前、2020年度から全国の高校で選択科目「理数探究」が新設された。生徒が問題意識を持ちオリジナルな解決策を探るという新しいタイプの授業だが、教諭が教科書を使って板書しながら教える通常の授業とはかなり異なる。 生徒一人ひとりが問いを立て、クラスで協力しながら情報を集め、議論しながら解決を探るという斬新な試みだ。書はその新科目「理数探究」では何を学び、どのような達成を目指すのか、など豊富な事例をもとに解説する。 分子認知科学を専門とする著者は、東大教養学部などで長年サイエンスコミュニケーションに携わり、高校「理数探究基礎」教科書の編集委員長も務めた。さらに「東大超人気講義録」シリーズの『遺伝子が明かす脳と心のからくり』(羊土社)など一般向け啓発書も数多く執筆する理科教育の第一人者である。 「理数探究」の目指すところは壮大で、ドッグイヤーと言われる変化の激しい現代社会で柔軟に対応でき

    『理数探究の考え方』「理数探究」は先の人生で必ず活きる! - HONZ
  • 『人体の全貌を知れ』を読め! 人体とそれをとりまくサイエンスが如何に素晴らしいかを知るために - HONZ

    こういうを書ける人を心からうらやましく思う。医学や科学についていろいろなところで書いてきたが、まったくレベルが違う。ひとことでいえば、悲しいけれど才能の違いということになるのだろう。それに英語の壁もとてつもなく高い。 著者のダニエル・M・デイビスは英国の免疫学者である。インペリアル・カレッジ・ロンドンの教授で、そのHPを見ると優れた論文をたくさん発表していることがわかる。まだ52歳、現役バリバリ、脂の乗りきった研究者である。とりわけ得意なのはイメージング、いろいろなものを可視化する技術を用いての研究だ。なるほど、だから、このはその内容から始められているのか。 『人体の全貌を知れ』というタイトルからは、このの内容はすこしわかりにくいかもしれない。ごく短い最終章を除いた6つの章で、新しい、文字通りの画期的な技術がいかに開発されたか、そして、その技術が人体を知るためにいかに大きく寄与したか

    『人体の全貌を知れ』を読め! 人体とそれをとりまくサイエンスが如何に素晴らしいかを知るために - HONZ
  • 『ちくわぶの世界』を読んで悔い改めよ!喰い改めよ! - HONZ

    大阪にいると、ほとんどちくわぶなるものを目にすることもなければ、耳にすることもない。もちろん、口にすることもない。基的にチャレンジャーなので、一度はべてみるべきだ。と思ったわたしがアホでした。 名前から、竹輪と麩の中間的なものかと塑像していた。普通、そう思いますわな。竹輪は全国的におでん種として使われているし、麩は地域限定的かもしれないが、金沢おでんの車麩なんかは絶品やし。ただ、竹輪と麩の中間体であるとすると、えらく安いのはすこし気になった。 そして実物、おでんのちくわぶ。まずかった。いや、著者の丸山晶代さんに怒られそうなので、口にあわんかった、としておこう。なんやねん、あれは。ウルトラ巨大なマカロニか。あるいは、こねたらない超ぶっというどんを短くして真ん中に穴をあけたもんか。すまん、それはマカロニやうどんに失礼というものだろう。形は似てるかもしれんが、歯ごたえがマカロニやうどんと違い

    『ちくわぶの世界』を読んで悔い改めよ!喰い改めよ! - HONZ
  • 『語学の天才まで1億光年』超絶面白い語学本! - HONZ

    表紙をみて思わず笑ってしまった。1光年は、光の速さで1年かかる距離だ。1億光年は1億年である。にもかかわらず表紙に描かれた人物は、遥か彼方の目的地にのんきにカヌーで向かおうとしている。 だが笑った後で、はたと気づいた。言語の習得というのは、まさしくカヌーを漕ぐような行為なのではないか。前に進むかどうかは自分次第。しかも目標に到達するまで気の遠くなるような時間がかかる。そう考えると、いたく説得力のある表紙にも見えてくる。 書は、「誰も行かないところへ行き、誰もやらないことをし、誰も書かないを書く」ことをポリシーに、「辺境ノンフィクション」という独自のジャンルを切り拓いてきた著者による語学体験記である。同時に極めて実用的な言語学習の参考書でもある。語学をめぐる面白すぎるエピソードと、現場でとことん使える実用的知識との融合。あまりにユニーク過ぎてちょっと類書が思い浮かばない。唯一無二の語学

    『語学の天才まで1億光年』超絶面白い語学本! - HONZ
  • 『世界は五反田から始まった』足元から歴史が広がる - HONZ

    東京は広い。長いこと住んでいても、まだまだ知らない場所がたくさんある。 著者は東京品川区の戸越銀座で生まれ、現在もそこで暮らしている。著者の家は祖父の代からこの地で町工場を営んでいた。 戸越銀座は五反田から東急池上線なら二駅、都営浅草線なら一駅だ。戸越銀座も五反田もそれなりに知っているつもりでいたが、所詮それはピンポイントの知識に過ぎなかった。書を読むまで、このあたりを面としてとらえるイメージがまったくなかったのである。 戸越銀座と五反田は直線距離でわずか1・5キロほどしか離れていない。この界隈に住む人にとっては、戸越銀座商店街も五反田駅周辺も生活圏なのだ。五反田駅を中心とした半径約1・5キロの円を、著者は〈大五反田〉と呼ぶ。 書は〈大五反田〉の歴史を著者の個人史と結びつけて掘り下げた一冊だ。知らない街や他人様の歴史に興味はないと敬遠するのはあまりにもったいない。実は五反田は、日の近

    『世界は五反田から始まった』足元から歴史が広がる - HONZ
  • 『チェリスト、青木十良』 - HONZ

    チェリスト、青木十良が88歳のときから録音を始めたバッハの無伴奏チェロ組曲を聞いたときの驚きは忘れられない。 艶やかで密度の濃い音楽だけが、ある。そして90歳代に入ると、もはや「音」だけしかない、という境地に至る。まわりのすべてのものが消えて、世界に音しか存在しなくなる、と言ってもよいかも知れない。そして、透き通るようでありながら「存在感そのもの」ともいえようなその音も、聞き手の耳に届くやいなや、天上のものであったかのように、スーッと消え去ってしまう。すなわち聞き手は静寂と無のなかにひとり取り残され、うろたえつつ、静けさにただ身を晒すしかない、そんな印象だ。 その青木十良の人生を取材によって描き出したが出た。こちらもその音楽に劣らず惹きつけられるものだった。 というわけで、クラシック音楽についてちょいと高尚なことでも書いてやろうと思っていたのだが、実は、より心惹かれ、飛び切りに面白いと思

    『チェリスト、青木十良』 - HONZ
  • 『言語が違えば、世界も違って見えるわけ』文庫解説 by 今井 むつみ - HONZ

    黒い空、オレンジ色の 「ヒュッゲ」ということばをこのごろよく耳にする。ウィキペディアでは、「ウェルネスかつ満足な感情がもたらされ、居心地がよく快適で陽気な気分であることを表現するデンマーク語およびノルウェー語である」と解説している。家族や友人とおいしい飲み物やおつまみを囲みながら居心地の良いひと時をゆっくりすごす時間を「ヒュッゲな時間」と言うようである。『翻訳できない世界のことば』(エラ・フランシス・サンダース著、前田まゆみ訳、創元社)には、このような、日語ではことばをもたないエキゾチックな概念がたくさん紹介され、日の読者は、ことばの窓から見知らぬ国の見知らぬ文化を覗き見て心ときめかせた。 現代に生きる私たちは、「わび・さび」ということばが表す概念を一言で表すことばは日語に特異で、英語にも中国語にも、まったく同じ概念を指す「単語」がないことを知っているし、日語にはない概念を表すこ

    『言語が違えば、世界も違って見えるわけ』文庫解説 by 今井 むつみ - HONZ
  • 『中世ヨーロッパ ファクトとフィクション』「暗黒時代」という神話はなぜ生き残ってきたのか - HONZ

    「中世ヨーロッパ」と聞いて、何を思い浮かべるだろうか。「疫病と飢饉」、「魔女狩り」、「異端審問」……。代表的なものを挙げたが、いずれにせよ、西ローマ帝国が滅んだ5世紀末からの約1000年間に明るく進歩的な印象を抱く人は少ないだろう。 だが著者は、そうしたネガティブなイメージはここ200年ほどの間に私たちに植え付けられた誤解だと説く。書には、中世に関する11の「フィクション」が登場する。多くの人は、どれも一度は耳にしたことがあるはずだ。 中世の人々は地球が平らだと思っていた。風呂にも入らず、暮らしは不潔で腐った肉も平気でべた。教会は科学を敵視し、今では誰も疑うことのない説も教会の権威によって迫害され続けた。何の罪もない女性たちが何万人も魔女として火あぶりにされた。 これらの説は、文化上構築された「中世」にすぎず、前世紀までに歴史学の専門家によって否定されている。だが、今でも大きな顔をして

    『中世ヨーロッパ ファクトとフィクション』「暗黒時代」という神話はなぜ生き残ってきたのか - HONZ
  • 『吉原夜話』ありし日の残り香 - HONZ

    この作品は大正14年に都新聞なる新聞の演芸欄に連載されていたものを、昭和39年に一度単行化、その後復刊されたものだ。インタビュー方式といえば言いうだろうか。都新聞の記者である宮内好太郎が喜熨斗古登子(きのし ことこ)に江戸末期から明治初めにかけての吉原について質問し、古登子が語るという形式で書かれている。この喜熨斗古登子なる人物は、歌舞伎役者の初代市川猿之助の奥方だ。実家が吉原で「中米楼」という楼を営んでおり、喜熨斗古登子も市川猿之助に嫁ぐまで、家業の手伝いなどをしていたようだ。 “吉原の話、それは大変ですよ。なにしろ江戸といわれた時分には、お江戸の名物三千両といわれましてね、吉原、魚河岸、芝居街の三ヶ所は、烏カアカアで、一夜明けたが最後、その時分の金で一千両は動いたというくらい、豪勢なところでしたから、それだけ御威勢のあるところとされていたものです” 吉原の話を渋る喜熨斗古登子に宮内好

    『吉原夜話』ありし日の残り香 - HONZ
  • 色覚サイエンスの最先端を知ると、「日本」まで見えてくる――『「色のふしぎ」と不思議な社会』  - HONZ

    「この赤はリンゴの赤だね」と言うとき、どんな赤色を見ているかは、実は人それぞれだ。そもそもヒトがどんな色を視ているかを科学的に考えたことがあまりない。ところがその色覚について、「正常」と「異常」に線引きする時代もあった――それなら色覚とはいったいどういうものなんだ? 猛然と、最先端のサイエンスの知見に挑む著者による、新たな色覚原論の決定版! 著者の川端裕人さんと言えば、最近では『理論疫学者・西浦博の挑戦 新型コロナからいのちを守れ!』や『科学の最前線を切りひらく!』など、サイエンスの現場の話を平易に伝えてくれるノンフィクション作家だ。と同時に小説も数多く手がけているほどで、読みやすい文章でこちらの守備範囲を広げてくれる。 1964年生まれ、学校健診の色覚検査で「色覚異常」とされた、当事者である川端さんが5年以上地道に調べて書き上げたのが、色覚をめぐる社会情勢と歴史、そして、2021年の科学

    色覚サイエンスの最先端を知ると、「日本」まで見えてくる――『「色のふしぎ」と不思議な社会』  - HONZ
  • 認知科学の観点から考えた最適の英語学習法──『英語独習法』 - HONZ

    この『英語独習法』は、認知科学や発達心理学を専門とする今井むつみによる、認知科学の観点から考えた最強の英語学習について書かれた一冊である。『「わかりやすく教えれば、教えた内容が学び手の脳に移植されて定着する」という考えは幻想であることは認知心理学の常識なのである。』といったり、多読がそこまで良くはない理由を解説したり、一般的に良しとされる学習法から離れたやり方を語っている。 特徴としては、「何が合理的な学習方法なのか」を披露するだけではなく、「なぜそれが合理的なのか」という根拠を説明しているところにある。だから、これを読んだらなぜ一般的な英単語の学習法(たとえば、英単語と日語の意味を両方セットで暗記していく)が成果を上げないのか、その理屈がわかるはずだ。認知科学のバックボーンから出てくる独習法も納得のいくものばかりである。僕も様々な理由(英語圏Vなどの英語が聞き取れるようになりたい、洋書

    認知科学の観点から考えた最適の英語学習法──『英語独習法』 - HONZ
  • 『剱岳—線の記』古代日本のファーストクライマーを探せ! - HONZ

    新田次郎の『劒岳〈点の記〉』は、日露戦争直後の1907(明治40)年、前人未到とされ、また決して登ってはいけない山と恐れられていた北アルプスの剱岳(標高2999m)の登頂に挑んだ測量官を描いた山岳小説の傑作である。 物語は、設立間もない日山岳会との初登頂争いの形をとりながら進んで行く。 実際はこの登攀争いはフィクションらしいのだが、剱岳が当時、未踏峰とされていたのは事実だ。そして、日陸軍参謀部陸地測量部の柴崎芳太郎率いる測量隊が命がけの登頂に臨み、見事成功した。 ところが、彼らはそこで信じがたいものを目撃した。 山頂で彼らは、古代(奈良〜平安時代)の仏具を発見したのだ。 置かれていたのは、錫杖頭と鉄剣だった。錫杖頭とは、杖の頭部につける金属製の仏具である。振ると円環が触れ合って音が出る。山中で修行する山伏が携行しているものだ。柴崎隊よりもはるか昔に、剱岳の山頂にたどり着いていた者がい

    『剱岳—線の記』古代日本のファーストクライマーを探せ! - HONZ
  • 『宇宙の始まりと終わりはなぜ同じなのか』訳者あとがき by 竹内 薫 - HONZ

    超天才ロジャー・ペンローズ! 書は超天才ロジャー・ペンローズ博士の最新刊だ。 え? ペンローズって誰? うーん、たしかにペンローズは、玄人ウケするものの、さほど一般科学ファンに浸透しているとはいえないかもしれない。でも、この人、マジでスンゴイ科学者なんです。 ペンローズは、誰でも知っているホーキング博士のお師匠さんなんですね。あの「車椅子のニュートン」と呼ばれる天才物理学者の博士論文を審査して、のちに一緒に共同論文を書いていたりするわけ。 ペンローズの名前は、版画家エッシャーの不思議絵の科学的なヒントを与えた人物として、芸術史にも顔を出す。それもペンローズが、まだ子供の頃にエッシャーに教えたというのがスンゴイところ。 ペンローズは、トイレットペーパー訴訟でも世界的に有名になった。彼が発見した「準結晶」(=完全に規則正しくないけれど、秩序のある、結晶の仲間と考えてください)のパターンを、さ

    『宇宙の始まりと終わりはなぜ同じなのか』訳者あとがき by 竹内 薫 - HONZ
  • 『自閉症は津軽弁を話さない』文庫版著者あとがき - HONZ

    の何気ない「自閉症の子どもって津軽弁しゃべんねっきゃ」というひとことに、私は10年ものあいだ「当に?」「どうして、なぜ?」と問い続けました。そして同時に湧き上がった疑問。 「なぜ、他の人は目の前にあることを不思議に思わないでいるのだろう」 この研究を通して出会った保護者や支援者の多くは、この現象について「どうしてだろう?」と疑問に思ってくれました。ところが、専門家にとっては〝地域での臨床経験があればあたりまえ〞のことだったりして、研究者には〝どの理論で説明できるか〞ということがひっかかったようでした。この現象を多くの人が知っていたのに、なぜ不思議だと思わず、今まで誰もそのメカニズムを解明しようと考えなかったのでしょう。 研究者や専門家といわれる人々(私もですが)は、自分の専門や関連領域について多くの知識をもっています。私も大学に勤めていた時は教育相談にこられたお母さんに「それはASDの

    『自閉症は津軽弁を話さない』文庫版著者あとがき - HONZ
  • 時間とはいったいなんなのか?──『時間は存在しない』 - HONZ

    時間は存在しない、といきなり言われても、いやそうは言ったってこうやって呼吸をしている間にもカチッカチッカチッと時計の針は動いているんだから──とつい否定したくなるが、これを言っているのは、一般相対性理論と量子力学を統合する、量子重力理論の専門家である、職のちゃんとした(念押し)理論物理学者なのである。 名をカルロ・ロヴェッリ。彼が提唱者の一人である「ループ量子重力理論」の解説をした『すごい物理学講義』は日でもよく売れているようだが、書はそのループ量子重力理論から必然的に導き出せる帰結から、「時間は存在しない」ということをわかりやすく語る、時間についての一冊である。マハーバーラタやブッタ、シェイクスピア、『オイディプス王』など、神話から宗教、古典文学まで幅広いトピックを時間の比喩として織り込みながら、時間の──それも我々の直感に反する──物理学的な側面を説明してくれるのだが、これが、と

    時間とはいったいなんなのか?──『時間は存在しない』 - HONZ
    funaki_naoto
    funaki_naoto 2020/07/15
    大森荘蔵みたいなタイトルだ。