【サマリー】 ◆世界金融危機後、円は上昇している。危機後の主要国・地域の為替レートとマネタリーベースの動きを見ると、マネタリーベースの伸びが不十分な国は自国通貨高になる傾向がある。 ◆円が上昇しているのは、他の国が金融を緩和しているのに、日本がそうしていないからである。 ◆円高は経済を停滞させ、最終的には国民的強ささえも失わせる。第2次大戦前のフランスがそうだった。日本はフランスになってはならない。
菅直人財務大臣(兼副総理・経済財政担当大臣)が1月7日の就任記者会見で「もう少し円安の方向に進めばよい」「適切な水準になるように、日銀との連携も含めて努力をしなければならない」と述べたことが、一部から批判されている。しかし、2001-03年には当時の塩川大臣もたびたび円安に言及していたが特に問題視されていなかった(※1)。そもそも景気刺激・金融緩和手段としての外国為替介入は珍しいことではなく、スイス中銀が「対ユーロでのスイスフラン高阻止」を金融政策の目標に掲げているほか、最近では韓国がドル買い・ウォン売り介入した模様である。諸外国に比べて一段と厳しいデフレ不況下にある日本が、為替介入の選択肢を排除する理由は見当たらない。 円安が重要なのは、デフレ脱却の最終・最強手段だからである(前回コラムを参照)。通常の金融緩和手段は利下げだが、金利はマイナスにはできないため、ゼロまで引き下げるとそれ以上
経済が成長すれば、多くの経済問題は解決する。だから、まず、成長優先の政策が大事だ。よく聞く話である。日本も、1990年代初めにバブル経済が崩壊した後、次なる成長(たとえば、高付加価値化戦略など)を目指して、様々な対策を打った。成長すれば、借金などの問題も解決するとの発想で、毎年、借金を重ねた。結果、経済対策のおかげで、民間部門(企業、家計)のバランスシートは改善したが、一方で、国の債務残高は膨大なものとなり、バブル崩壊から20年近く経過しようとしている今でも、債務削減への明確な道筋が見えない。これでは、様々な対策を打ったと言っても、それは単に、民間の借金を国が肩代わりしただけではないかと言われても仕方がない状況である。 この現実を目の当たりにすると、日本では、成長戦略の発想が、必ずしも妥当ではないのではとの疑問がわいてくる。何故、成長戦略が、あまりうまくいかないのか。その一番の原因は、日本
今年は、私の『日本の失われた十年』(日本経済新聞社)が出版されてから10年になる。この本を書いたのは、日本が「失われた十年」の大半をへた後だったから、当然、「失われた十年」を分析し、それを繰り返さないためにと思って書いたものだ。 しかし、「失われた十年」の後さらに十年たった今、悲しいことに、脱却したと思った「失われた10年」に戻っている。日本の実質GDPは2003年から2%で成長してきたが、エコノミストの予測平均では、08年度がマイナス3.0%、09年度がマイナス4.5%、2010年度がプラス1.1%である。すると、2000-10年の年平均成長率は1%以下で、「失われた十年」の90年代より悪いことになる。 自分の本を読み返してみると、金融政策とそれによって生じたデフレの害悪を強調している。これは正しいと今も思っている。当時もまた今も、銀行が不良債権を抱えたことが本質で、それを解決しないかぎ
日々激しく変動する金融市場の動きを追いかけていると、短期的事象には敏感になる反面、長期的事象には鈍感になりがちである。しかし、人間の時間感覚では静止しているように見える氷河が、長期的には岩山を削り取るほどの破壊力を秘めているように、人間社会にも、日々の変化はごく小さいが、長期的には決定的な影響を及ぼすファクターが存在する。それは人口動態である。 経営論で名高いドラッカーが「これからの世界を左右する支配的な要因は…人口構造の変化である」と指摘した(※1) ように、人口構造変化は経済社会に極めて大きな影響を及ぼしている。一例を挙げると、日本を含む先進各国では、ベビーブーマー(日本では“団塊の世代”)が若者になった1970年前後に激しい学生運動が展開されたが、これは、人口学的には、「若者人口の爆発的増加は、社会の不安定化・暴力化を招く」と説明できる(※2)。 では、人口学が予見する日本の未来はど
世界金融危機の直接の影響は、日本が先進国の中で一番小さいはずなに、実体経済は日本が一番悪化している。2009年10-12月期の実質GDPの対前期比年率は、アメリカがマイナス3.8%、ドイツがマイナス8.2%、フランスがマイナス4.6%、イギリスがマイナス5.9%であるのに対して、日本はマイナス12.7%である。この理由は、もちろん、12月の本欄「なぜ日本のショックは大きいのか」でも書いたように、日本の外需への依存度が高いことにある。ヨーロッパの中でも、輸出に依存しているドイツの落ち込みは相対的に大きい。やはり輸出依存の高い韓国の実質成長率も、マイナス20.8%と大きい。しかし、日本の落ち込みが大きい理由は、それだけだろうか。 危機以後、円は急速に上昇した。金融危機が認識されていなかった2007年前半の120円から、現在の90円まで3割以上も上昇した。最近は、おそらく、日本の政治が見捨てられ
世界金融危機の一因として、中国をはじめとするアジアの過剰貯蓄があるという説がある。過剰貯蓄がアメリカの実質金利を低下させ、実質金利が低かったがゆえに住宅バブルが起こったというものだ。しかし、まず、アジアの過剰貯蓄が、本当にアメリカの実質金利を低下させたどうかに疑問がある。名目金利の低下がインフレ率の低下によるのは確かだが(これについては私の論文「『長期金利の謎』を解く」大和総研、2007年 5月9日、を参照していただきたい)、実質金利の低下が何によるのかは、それほど明確ではない。しかし、仮に、中国の過剰貯蓄がアメリカの実質金利を低下させたからと言って、何が悪いのだろうか。 実質金利が低くなれば、アメリカはより多くのものに投資ができる。これまでよりも収益率の低い投資もできるわけだが、それで何も困らない。返さなければならない借金の金利が低いのだから、収益率の低い投資を行っても、十分に採算が取れ
金融危機の煽りを受け、世界では富裕層のカネが全く動かなくなっている。金融資産投資や不動産投資はもちろんのこと、自動車や美術品、宝飾品、ブランド品など高額品への出費も大きく縮んでいる。 昔からの真の富裕層にとって何割かの株価下落は大したことではないのかもしれないが、過去数年で台頭した新興国のニューリッチ層は、おそらく大きな痛手を被っているだろう。ストックの資産家のみならず、フローの高額所得者にも厳しい環境が訪れている。世界を闊歩していた高額所得のインベストメント・バンカーは失職の危機感を背負い、原油価格の高騰を背景にしたオイルマネーも原油価格急落で先行きがあやしい。そして日本でも富裕層への影響は小さくない。不動産価格は都心一等地ほど下落率が大きく、銀座のクラブも閑古鳥が鳴いているという。 今後、しばらくすれば景気が回復し、再び富裕層のカネが動き出す、と考えるのは楽観的発想かもしれない。所得や
世界金融危機はアメリカ発で、日本の金融危機の程度はずっと小さいのに、日本経済への影響が大きいのはなぜだろうか。その一因は、日本の外需への依存度がさらに高くなっていることにある。 世界の輸入の中でアメリカの占める比重は15%(IMFデータ)にすぎないが、世界のGDPに占める比重は25%(世銀データ)である。このように数字が異なる理由のひとつは、世界の貿易は部品など中間財が多いが、アメリカでは最終消費財の輸入が大きいことである。中国の全世界に対する輸入のシェアは急増しているが、最終消費財輸入でのシェアは低いままだ。中国は部品を輸入しているが、それを組み立て最終製品になったものの行き先はアメリカである。したがって、アメリカの輸入が減少すれば、中国の輸出も減少する。日本は、中国に大量に輸出していると思っていたが、その多くは部品で、結局、最終的にはアメリカに輸出していたのと変らない。世界の最終需要の
財政政策で今ばらまいても、いずれ増税すれば、将来世代のことを考えた責任ある財政政策になると、一部の人は考えているらしい。しかし、なぜ増税するかといえば、現在の高齢者のための予算が足りないからだという。そうすると、現在の高齢者に配るために、数年後の勤労世代に増税することになる。これがどうして将来世代(普通、15-30年先のことと考えると思う)のことまで考えた責任ある財政政策になるのだろうか。現在の高齢者に配ってしまえば、将来の高齢者(現在の勤労世代である)に配るお金はない。将来には、また増税しなければならない。 数年先の増税を、将来世代のことを考えた責任あるものとするためには、その増収分は国債の償還に使わなければならない(国債は国から見れば借金だが、それを持っている国民から見れば財産なので、国債が本当に国民の負担になるのかという大問題があるのだが、ここで議論する余裕はないので、負担であるとし
2007年末時点の高速道路の総延長は、日本が8,984Kmであるのに対し、中国は5.5万Km、前者の約6倍に相当する長さである。国土面積が日本の25倍という広さから考えれば、日中の高速道路の長さを単純に比べる意味はないかもしれない。しかし、1997年に遡れば、日本の高速道路が6,114Kmに対し、中国は4,800 Kmに過ぎなかった。わずか10年の間に、中国の高速道路の総延長は年平均30%増のスピードで急速に伸びてきたのである。 中国が高速道路網の整備に本格的に乗り出す契機となったのはアジア通貨危機である。1997年7月2日、香港が中国に返還された翌日、タイのバーツが急落し、アジア通貨危機の幕開けとなった。厳しい資本規制が敷かれていた中国は通貨危機の直撃を免れたものの、周辺諸国の景気悪化で輸出の減速は余儀なくされた。一方、アジア通貨危機が起きる前に、景気の過熱感やインフレの高進を抑制するた
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