【講座:ペンとともに考える】 『やぎさんゆうびん』の謎 まずここで、「やぎさんゆうびん」(作詞:まどみちお)なる童謡の歌詞を提示しておく。 1 白やぎさんからお手紙着いた 黒やぎさんたら読まずに食べた 仕方がないのでお手紙書いた さっきの手紙のご用事なあに 2 黒やぎさんからお手紙着いた 白やぎさんたら読まずに食べた 仕方がないのでお手紙書いた さっきの手紙のご用事なあに 以下無限に続く さて、ここで私が論じようとしているのは、この歌詞に秘められた謎である。いや、謎などというと誤解を招くかもしれない。不可解な点と言い直す。つまり、「なぜ《白やぎさん》及び《黒やぎさん》は、《お手紙》を読まずに食べてしまうのか」という点に関する疑問である。そしてもう一点、「《白やぎさん》による第一通目の手紙には何が書かれていたのか」という疑問である。これらをできるだけ論理的な形で論じてみたいと思う。 まず、こ
20世紀の初め、伝統と新しい近代文明との狭間で大きな曲がり角を迎えるヨーロッパ音楽(西洋クラシック音楽)に対し、新大陸アメリカでは、全く異質の文化が出会うことによって生まれた新しい音楽が開花していた。 それは、奴隷として新大陸に連れてこられた黒人たちによるアフリカ音楽と、移民として入植した白人たちのヨーロッパ音楽が奇妙に融け合った音楽で、最初は遠いアフリカへの郷愁と奴隷の境遇を嘆きつつギターをかき鳴らす「ブルース」として広まった。 やがて、この音楽は西部の酒場に転がっていたピアノや南北戦争の軍楽隊の楽器(トランペットやベース、太鼓など)と合体して、いくぶん賑やかな酒場の音楽「ジャズ」となった。 そして、1920年代頃には、この「ジャズ」は、アメリカを代表する音楽として洗練の極に達する。ガーシュウィンやラヴェルが登場した時代だ。 さらに、第二次世界大戦前後、黒人音楽「ブルース」にリズムを加え
NHK大河ドラマ「平清盛」の音楽を担当して一年。本編ドラマの方は全50回の中盤27回、最大のクライマックス平治の乱を終えたところだが、音楽は一足先にほぼ全作業を完了した。 そこで、一年に渡る音楽制作の全貌を、ひとまずざっと統括してみることにした。ドラマを見る上での一興として、あるいはこういう種類の音楽を目指す若い人たちの何かの参考になれば幸いである。 (放送までのいきさつに関しては、今年1月の《大河ドラマ「平清盛」音楽制作メモ》に書いたので興味のある方はそちらもご参考に) □制作日程 すべては2010年9月下旬、NHKからの作曲の打診から始まった。 まだ前々回の「龍馬伝」が佳境の頃。題材は「平清盛」。個人的に大河はやはり戦国武将系が好みなので、ちょっと変化球ながら面白い目の付け所だと思った。1年間NHKに毎週通うようなハードな制作方法ではないことを確認してから、内諾。 ただし、この時点で分
音楽史には、超絶技巧で名を馳せた伝説の演奏家たちがいる。 ヴァイオリンのパガニーニ、ピアノのリストはその双璧。「悪魔に魂を売った」と言われるほどの名技で聴き手を熱狂させたと伝えられる。 ただし、現代の若い演奏家たちの物凄いテクニックを聴くたびに、「演奏テクニックだけを比べたら、現代の若者たちの方が上なのでは?」と思うことが少なくない。 なにしろチャイコフスキーのヴァイオリン協奏曲やピアノ協奏曲を始めとする多くの有名コンチェルトは、作曲当時の巨匠たちから「難しすぎて弾けない」とお墨付きをもらったはずの難曲。しかし、現代の若者たちは(特に音楽専門でない高校生でも)普通に弾きこなす。 最近では、ラフマニノフのピアノ協奏曲第3番など、当時は(2m近い大きな身体と12度を軽く抑えられる巨大な手を持つ)ラフマニノフ以外の人には弾けなかった超難曲&大曲を、若いピアニストが弾きこなすようになっていて、感心
同じ映画や音楽や物語や舞台を見聞きして、「面白い」という人と「面白くない」という人がいる…というのは実に「面白い」と思う。 例えば、今、音楽を担当しているNHKの大河ドラマ「平清盛」も、「面白い!」という人と「面白くない!」という人が混淆していて、その様々な視点が逆に興味深くも面白い。 私は(音楽をやっていることをヌキにして)「面白い」派。 古今東西の色々な元ネタ(それは源氏物語から最近のコミックスまで多岐にわたる)をまさに「遊びをせん」とばかりにシャッフルし伏線を張りまくる脚本(藤本有紀さん)は、群を抜いて「面白い」と思う。 その面白さは、古典などからの「本歌取り」的な部分もかなり大きい。例えば、主人公の清盛が法皇の御落胤で(吉川英治の「新平家物語」)、白拍子の母から馬小屋で生まれ(キリストの出生)、母が死んだ場所で実の父である白河法皇と対面する(ギリシャ悲劇?)。 さらに、海賊退治の回
クラシック音楽に興味を持ったのは14歳の時だった。 それまでは、普通にポップス(ビートルズやグループサウンズ)を聞きあさる中学生。クラシックの楽曲に特に親近感を感じたことはなかったのだが、高校受験真っ最中の冬、いきなり「作曲家になる!」と決めてしまう出来事があった。 それが、オーケストラと「スコア(総譜)」との出会いだった。 スコアはオーケストラの各楽器が演奏すべき「音符」がすべて書き込まれた、機械や建築でいう〈設計図〉、鉄道や飛行機でいう〈時刻表〉、舞台や映画でいう〈台本〉のようなもの。 そこに書き込まれた音符の通りにオーケストラの全楽器が音を出すと、あら不思議。「運命」だの「新世界」だの「悲愴」だの「幻想」だのという音響宇宙が鳴り響くのである。 しかも、それは単なる音の連続ではなく、美しかったり壮大だったり懐かしかったり心震えたり気持ちが昂揚したり、いろいろな感情を心の中に沸き立たせ、
号外:トヨタ自動車、営業利益72%減の1171億円。4月から12月期連結決算 2012/02/07 15:22:50 指揮者が変われば演奏の印象はまったく違うものになる。当たり前のようだが、では指揮者はどう作曲家の意図を解釈し、どのように曲を仕立てているのだろうか。数十人、時には100人を超えるオーケストラから引き出す響きは紛れもなく指揮者の響きでもある。ならばこの人、「炎のコバケン」の異名を持つ指揮者・小林研一郎さんにその極意を聞きたいと思った。 記者になる前、私は大学のオーケストラでファゴットを吹いていた。一度きりだが、小林さんの指揮の下で演奏する機会に恵まれた。15年前、大学3年生の秋のことだ。公開リハーサルの形式で行われた演奏会。小林さんは時に穏やかに、時に激しく、オーケストラのメンバーに強く「表現すること」を求めた。ただ、私自身にとっては悔いの残る演奏会でもあった。技術的な未熟さ
「宮川彬良&アンサンブル・ベガ」定期演奏会まであと少し。 当日配布プログラムのための文章「音楽が始まる前に」(響敏也)を、ご紹介します。 ご来場の方も、ご来場になれない方も、どうぞお楽しみください。 --------------------------------------------------------------------------- 繊細な心を持つ詩人のなかには、あわてん坊の詩人もいるようだ。 イギリスの詩人が街を散歩していた。無心に歩いていた彼に、詩の神様が降りてきた。詩人の頭に詩が浮かんできたのだ。彼は道端に寄って立ち止り、次から次へと浮かんでくる詩の言葉を手帳に書き記した。1時間、2時間、彼はそのまま書き続けた。ふと、ペンの文字が読みづらいのに気づいた詩人は、周囲に夕暮れが来ているのを知った。 「何時だろう。午後7時に人に会う約束があったんだ」。詩人は通り掛かった人に
むかし、行きつけのレコード店で(つまり、まだLPレコード盤が主流だった頃)、面白い光景に出くわしたことがある。 高校生くらいの男の子が一人、クラシック音楽コーナーのレコード棚をあちこちぐるぐると歩き回った挙げ句、店員にいきなりこう相談を持ちかけたのだ。 「すみません。〈これ1枚持っていたらクラシック通の顔が出来る!〉みたいなレコードありませんか?」 店員が「どういうことですか?」と聞くと、少年いわく… クラスの女の子で、クラシックに興味を持っている子が一人いて、何かの拍子に「ぼくも実はクラシック音楽が好きなんだ」と言ってしまった。でも、実際はクラシック音楽なんて聴いたこともない。 しかも、調子に乗って「今度、お勧めのレコードを貸してあげるよ」と言ってしまった。 さて、どうしたらいいだろう?とレコード店にやって来てあちこち探し回たが、どれを選んだらいいか分からず、考えあぐねて店員に声をかけ、
小池昌代『弦と響』(光文社、2011年02月25日発行) 小池昌代『弦と響』は四重奏団のラストコンサートの一日を中心としたオムニバスである。人間関係よりも、そのなかに出てくるひとりひとりの音楽に対する感じ方、それを書いた部分にひかれた。そして、いま、ひとりひとりの、と書いたのだが、そのひとりひとりの音楽に対する感じ方の違いというのは、この小説ではあまり感じられない。ひとりひとりの区別は、肩書(?)や名前、少しずつあらわれてくる人間関係のなかで描かれているが音楽に対する感じ方のなかにまでは個別化されていないように思える。言い換えると、小池は彼女自身の音楽に対する思いを、幾人かに語らせているのだが、そこにそれぞれの個性が出るというよりも、小池自身が顔を出してしまっているということである。 正直を言えば、長く聴いてきて、心底、感動したという記憶は数えるほどだ。しかも、その感動には実体がない。演奏
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