梅の花に冬ロスをいやされながら何とか過ごしているうちに、やっと桜前線が北上してきた。 世の中に数多ある前線のうちでも、桜前線ほど心焦がれる前線はあるまいと思う。 「桜前線」が「北上」だよ? 必ず私のところにもやってくる。 疲れていようがふてくされていようが、必ずここを通過する。 幸せすぎるじゃないですか。 自分は30代の後半ぐらいに、季節の感じ方がはっきりと変わったと思う。 誰でもそうなのだろうか。草花に対する感覚が強くなるのは。 若い頃は一体何を見て生きていたんだろうと繰り返し思うほど、草花の隆盛に美しさを感じるようになった。 ほんの数年前の春のこと、茫然と見入ったのが柳。 幼い緑色が、柔らかく、淡く、静かに静かに芽吹いてくる様子にすっかり魅了された。 あんなに幽けく芽吹くものが他にあるだろうか。 桜が咲く直前に樹全体が桜色に萌えたつように、 柳もまた、淡い緑色をほのかにまとう。 あの芽