甦る魔女 池上俊一 魔女がふたたび蠢きだしている。あちらにも、こちらにも。映画やテレビ、ゲームの世界で、あるいは書店の棚(絵本、オカルト本、魔女本コーナー)に、魔女たちが無視できない版図を占拠している。巷では魔女セミナーが人気を集め、そこでヒーリングや占いの術をマスターして「私は魔女よ」と呟けば、美魔女ならずとも周りの人たちから持て囃されるほどだ。これらは現代風俗や大衆文化の表面で広がっている魔女ブームと言えようが、一見その邪気のない振る舞いは案外根が深く、行き詰まった現代文明に抗したいという無意識の欲求、どうしようもない鬱屈の捌け口を求めているかのようでもある。 その起源となった人物の一人は、ドイツ民族学・言語学の祖ヤーコプ・グリムだろう。というのも彼は一九世紀半ばに、かつて魔女のレッテルを貼られたのは、実際はキリスト教以前の異教の信徒で、伝統や人々の知恵を保存した「賢女」だったとしたか