【連載】松本俊彦「身近な薬物のはなし」(4) はじめに 前々回、前回と、アルコールには深刻な健康被害や社会的弊害があること、そして、それでいながら様々な規制政策が奏功しないばかりか、強硬な禁止法はときとして為政者の立場を危うくしかねないことを見てきました。 なぜ人間はかくもアルコールを欲し、また、執着してきたのでしょうか? 今回はそのことについて考えてみたいと思います。 生き延びるためのアルコール 遺伝子の突然変異によって得たもの アルコールの摂取は人類の進化を加速させた可能性があります。 その端緒となったのが、遺伝子の突然変異です。ジャーナリストのブノワ・フランクバルムは、著書『酔っぱらいが変えた世界史――アレクサンドロス大王からエリツィンまで』1のなかでこう書いています。「1000万年前にまずは私たちの祖先に遺伝子変異が起こり……アルコールにふくまれるエタノールをより速く分解(代謝)で