少子高齢化で若年者が貴重な戦力となる中、採用選考は企業と学生、双方の成長に資するあり方へと変わることが求められている。教育と職業の接続を研究する東京大学の本田由紀教授(教育社会学)とリクルートワークス研究所の中村星斗研究員・アナリストが、選考にまつわる課題と今後進むべき方向性について語り合った。 ひそやかに存在するレリバンス 採用では評価されない 本田:私は教育の職業的意義(レリバンス)、つまり教育がその後の職業にどのように役立つのかを研究しています。日本は諸外国に比べ、職業的レリバンスが希薄だとされています。学生が学びにかけた時間とお金、そして良い授業をしようという教員の努力は本当に無駄になっているのか、だとしたらそれでいいのかという問題意識が研究の出発点です。 人文学・社会科学の分野で、学びの習得度と職業的な成果の関係を追跡調査した結果、大学での学びは、仕事のさまざまなスキルを高めてい
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自信をもてない文系出身の若者 「自分は文系なので、専門性がないんです」 こうした趣旨の言葉を若手社会人から聞くことがある。文学等の人文科学系学部、経済学や法学等の社会科学系学部を卒業し、総合職として事務系職種に就職した若手社会人の言葉である。高校生に戻れるなら理系を選択したいという人もいる。専門性も「やりたいこと」もないので、条件だけで仕事を選んでいるという人もいた。条件で仕事を選ぶこと自体は自然なことだが、その背後には「自分にはできることがない」という思考が見え隠れしている。これらの声は、筆者が 2023 年 8 月~ 9 月に実施した入社 1 年目~ 3 年目までの若手社員 18 名に対する聞き取り調査(以降、聞き取り調査と表記)の結果をもとにしたものである。 文系出身の若手社会人が口にする「専門性がない」という表現を、筆者は職業人としての強みをもたないという自覚に起因する自信のなさと
(はまなか・じゅんこ)東京大学大学院教育学研究科博士課程修了。博士(教育学)。専門は、教育社会学、高等教育論。リクルートワークス研究所研究員、独立行政法人大学入試センター助教、准教授、教授、東京大学高大接続研究開発センター教授を経て、2019年より現職。著書に『検証・学歴の効用』『「超」進学校 開成・灘の卒業生――その教育は仕事に活きるか』など。 開成、灘、浦和、湘南の卒業生を調査してみると……――このところ理系の就職率が高いこともあって、「理系がお得」という風潮がありますが、文系と理系で差があるのでしょうか。 2013年から18年にかけて、開成(東京)と灘(兵庫)の私立高校と、浦和(埼玉)と湘南(神奈川)の県立高校に協力してもらい、主に30~50代の卒業生を対象に、中高時代や大学時代の状況、就職後の状況、現在の仕事などについて調査しました。この中で年収も聞いていますが、人文・社会系の学部
社会的レリバンスの高い教育課程設計と 評価のあり方について 本田由紀(東京大学大学院教育学研究科教授) 1 資料1 日本の教育の問題点 2 義務教育段階から学力保障が形骸化、家庭が持つ諸資源の 多寡が子世代に直接的に影響、公立中高一貫制や高校学 区広域化・撤廃などの制度改変、「コミュニケーション能力」等 に基づく生徒間の「カースト化」 →「学力」と「生きる力」の両面で教育の格差化がいっそう進行 社会生活や将来の仕事に対する教育のレリバンスの希薄さ ・抽象的な記号操作能力に関する教育がいまだ支配的 ・職業教育機関の量的少なさ、地位の低さ ・精神主義的なキャリア教育はむしろ不安を拡大 全体として、「形式的平等」のもとに「学力」と「生きる力」の 「垂直的多様化」が進行しており、すべての者に「居場所と出 番」 を確保する「水平的多様化」にはなっていない。 3 日本の教育の現状 家庭の経済状況と子ど
本稿では,「制度的連結論」の理論的枠組みに関するこれまでの論点を整理したうえで,学校経由の就職が若年者の初職離職リスクに与えた影響の趨勢を分析した。日本における学校から職業への移行過程において,若年者と労働市場を媒介する役割を学校が果たし,制度的連結の仕組みが日本の若年労働市場の成功の重要な要因だと考えられてきた。一方,1990年代以降の労働市場の構造変動期に,制度的連結が機能不全をきたしたという議論がなされるようになった。 制度的連結について対立する2つの立場はいずれも一般化されたものであるといえる。しかし,学校経由の就職とジョブ・マッチングの関係のトレンドを直接に明らかにした研究はそれほど多くない。そのため,本稿では1995,2005年SSM 調査の合併データを用いたイベントヒストリー分析によって,制度的連結効果の趨勢を検討した。 分析の結果,高卒者については1990年代以降に初職を開
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