〈迷路〉や〈迷宮〉には、いわく言い難い魅力があります。人を迷わせる場であるにもかかわらず。いやそれだからこそでしょうか。世界には〈迷宮〉があふれています。生きる目的や意味を見失った現代社会、さらには、人生そのものもまた〈迷宮〉なのです…。今回はそんな〈迷宮〉をテーマにした作品を集めてみました。 まずは、文字通りの物理的な〈迷宮〉を扱った作品から。 ヤン・ヴァイス『迷宮1000』(深見弾訳 創元推理文庫)。近未来、神にも等しい権力を持つ独裁者ミューラーは、1000階建てのビルを建設します。館のなかで記憶を失ったまま、主人公の男は目覚めます。持ち物からわかることは、自分が探偵らしいということ。ミューラーを目指して男はビルをのぼり続けるのですが…。 チェコの作家ヴァイスが戦前に書いた、悪夢のようなイメージのあふれる怪作。人々を虐殺する場面などは、ナチスのホロコーストを予見したものと評価されている