鹿島茂氏は、『怪帝ナポレオン三世』の中で、「ルイ=ナポレオンは、パリを改造するためにナポレオン三世になったといっても、けっして言いすぎではない」と主張している。 無人の地に一から都市を造る(京都、ブラジリア)のでもなく、大火や大地震による破壊を利用する(大火後のロンドン、シカゴ、関東大震災後の東京)のでもなく、かといって自然発生的な経済原理による(バブル後の東京)のでもなく、ただ自分の頭の中の考えから出発して、都市計画を完全にやりとげてしまった例として、ナポレオン三世のパリの大改造は、ほとんど空前絶後の例といっていい。つまり、パリ大改造は、たった一人の人間の意志から生まれたきわめて稀な産物なのである。 これはほとんどデカルトの『方法序説』を思わせる。ただし、ナポレオン三世は、デカルトが「不道理」だとして退けたアイデアを実行してみせたというべきなのだが。 一都会のすべての家を、別の様式に造