真っ白な雲の群れがところどころを覆う太平洋に、暗い影が迫ってきた。さし渡し百数十キロのだ円形をした「月の影」だ。インドネシア、フィリピンと走り抜け、今、時速約2500キロで走る。1988年3月18日午前11時すぎ、本社機「千早」は、小笠原・南硫黄島沖で影の中にすっぽり入り、日本付近では20世紀最後の皆既日食を捕らえた。 この直前、南の空、高さ60度余の太陽は、黒い月にぐんぐん覆われ、細い弧を描くだけになっていた。最後の瞬間、弧の一点が、キラリと輝き、指輪に載った宝石のように見えた。「ダイヤモンドリング」と呼ばれる現象だ。「あのダイヤの付近の月面は、山と谷の高度差が3000メートルぐらい。ダイヤの輝きは、月の谷間からもれる太陽の光」と、同乗の東大東京天文台助手の相馬充さん。 ダイヤが消え、皆既日食になると、代わって、太陽の周りに、真珠のように白いコロナが現れた。約3分50秒の闇(やみ)。