新型コロナウイルスが猛威を振るっていた4月、ドイツ最大の日刊大衆紙ビルトの編集局長が習近平中国国家主席に公開書簡を送り、話題になった。公開書簡は、ウイルスの全世界への拡大は中国に責任があると追及する内容で、「習主席よ、あなたは監視することで国民を統治しているが、なぜあれほど危険な武漢の海鮮市場を監視できなかったのか」「コロナが漏出した疑いのある武漢の研究所をなぜ、政治犯収容所ほど厳しく密閉できなかったのか」などと皮肉たっぷりに問い詰めた。 大きな影響力を持つ大衆紙が、これほど挑発的な書簡を出したことで、中国に対するドイツ世論の風向きが劇的に変わり、それが「脱中国」へ向かう政策的転機になる可能性さえ否定できなかった。 ●覇権拡大を事実上容認 だが、7月からの欧州連合(EU)議長国就任を前に、メルケル・ドイツ首相が5月末に行った外交安全保障演説は耳を疑うものだった。この期に及んでなお、メルケル