ブックマーク / blog.goo.ne.jp/hiroyuki-ohba (279)

  • AIの法的統制および国家による利用をめぐって - 29Lib 分館

    龍彦編『AIと憲法』日経済新聞, 2018. AIが浸透した社会での憲法の在り方を考察する論文集。序章を含めて全10章、5つのコラムを14人の若手法学者が執筆している。トピックとして「プライバシー」「自己決定権」「経済秩序」「人格」「教育」「民主主義」「選挙制度」「裁判」「刑事法」が扱われている。 AIの主な機能は、個人に関する大量のデータを収集してプロファイリングする、ということになるだろう。このようなAIの機能を、国家は裁判や刑事事件の捜査のために利用する可能性がある。あるいは学校で個別指導のために使用される可能性がある。また、AIプロファイリングはすでに企業が用いているが、その場合どのような介入が求められるか、などについて検討している。また、、AIが判断ミスをした場合、帰責の対象は誰になるのか(AI自身というのはアリか)など、SF的に見える(でも切実な)検討がなされている。 論

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  • 犯罪者うごめくアングラ世界と反民主主義思想を並置 - 29Lib 分館

    木澤佐登志『ダークウェブ・アンダーグラウンド:社会秩序を逸脱するネット暗部の住人たち』イースト・プレス, 2019. インターネットの闇世界の解説書。ただし、闇世界だからタイトルに「ダーク」と付けられたわけではないらしく、もともとダークウェブとは接続に専用のブラウザソフトが必要という手間があるだけの一応は開かれたインターネット領域のことを意味するらしい。著者は1988年生まれのブロガーということだが、ルポルタージュ的な書籍だと考えるといいだろう。 特殊なブラウザを使い、接続にあたってとことん匿名化する。これによって、ダークウェブの利用者は何をするのか。それは麻薬の売買、児童ポルノ、殺人依頼である。お金はビットコインで支払う。詐欺も横行している。というわけで結局、技術的な意味だけでなくコンテンツ的にもダークな領域になってしまっているようだ。あるいは著者がそのような特殊領域のみ記事化したのだろ

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  • 図書館映画の感想とついでの思いつき - 29Lib 分館

    映画『ニューヨーク公共図書館:エクス・リブリス』フレデリック・ワイズマン監督, 2019. 日初公開から遅れること五ヵ月、勤務先の近所にある下高井戸シネマ1)で公開されるというので出勤ついでに観てきた。ただし、長すぎて観た後に仕事をする気力は無くなった。なお、僕は20年以上前の1990年代後半に旅行者として同図書館を訪れ、館内ツアーに参加したことがある。けれども、その頃は僕の知識が無さすぎでかつ英語がわからないしで、よく理解できていなかった。 映画は特定の人物に焦点を当てることはせず、図書館が主催する講演会や会議、利用者などの様子を淡々と写してゆくというもの。館内の裏方仕事の描写やコレクションの紹介が無いわけではないものの、割合的には少ないと言えるだろう。カメラが捉えることの多くは、講演会や舞台活動、子どもやマイノリティに対する教育活動、文学サークルでのディスカッションなどで、主に人的サ

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  • ネットワーク科学黎明期の記録、入門書としては微妙 - 29Lib 分館

    ダンカン・ワッツ『スモールワールド・ネットワーク: 世界をつなぐ「6次」の科学 / 増補改訂版』ちくま学芸文庫, 辻竜平, 友知政樹訳, 筑摩書房, 2016. ネットワークの科学黎明期のドキュメント。著者の別の書籍(参考)をかつて紹介した。著者はいつからか「社会学者」を名乗るようになっているが、駆出しの頃はどちらかと言えば理系の立場でネットワーク研究をやっていて、そもそも学部の頃は物理学を専攻していたとのこと。原書はSix degrees: the science of a connected age (W.W.Norton, 2003.)で、邦訳が2004年に阪急コミュニケーションズから発行されている。ここで紹介する文庫版は、2004年の原書paperback版をもとにしたもので、新たな章が追加されている。 前半は、著者の研究歴を紹介しつつこの領域の理論の進展について伝えている。後半は

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  • 日本では高級文化を身に付けるのは女性だった - 29Lib 分館

    片岡栄美『趣味の社会学:文化・階層・ジェンダー』青弓社, 2019. ブルデューが『ディスタンクシオン』で展開した理論を使って、日における文化と階層の関係を解釈してみようという試み。多変量解析による図表が満載で、一般の人が読みやすいではない。おもに1990年代初めから2000年代初頭に発表された論文を改訂して収録した論文集であり、あとがきによれば諸事情で書籍化が遅れてしまったとのこと。僕も10年以上前に4章と7章の元となった論文を読んだことがあって、性差や文化的オムニボア(雑)という概念を採り入れた議論が面白かったことを記憶していた。 著者によれば、ブルデューの文化的再生産論は日社会階層を説明するのには適切ではないと、長らく日の社会学者らによって考えられてきた。20世紀の半ばのフランスでは学歴エリート層は高級文化を体得することによって卓越を示した。しかし、日学歴エリートはそ

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  • 社内全職員の平等化とその他労働者の排除の歴史 - 29Lib 分館

    小熊英二『日社会のしくみ:雇用・教育・福祉の歴史社会学』講談社現代新書, 講談社, 2019. 近年ではジョブ型/メンバーシップ型という概念で説明されるようになってきた日の雇用制度の形成史である。米独などの雇用慣行との比較もある。新書ながら600頁もあるものの、著者の他の著作に感じることのある「無駄に長い」という印象はなく、コンパクトにまとまっていると言える。 書は次のような歴史を描く。明治から戦前期にかけて、日の大企業の雇用者は、上級事務員、下層事務員、現場労働者の三層構造だった。それぞれの学歴は大卒、高卒、中卒に対応したが、諸外国と異なり、学校で学んだ内容は問われなかった。また上級事務員のみ昇給と終身雇用が約束された。こうした三層構造は、政府における官僚組織や軍隊から影響を受けて形成されたと推測されている。 敗戦直後、上級事務員の生活が困窮するに及んで、彼らと現場労働者との同盟

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  • デジタル人文学まわりのスナップショット - 29Lib 分館

    岡田一祐『ネット文化資源の読み方・作り方:図書館・自治体・研究者必携ガイド』文学通信, 2019. インターネットで公開されている日文化関係の諸アーカイブ、およびそれに関連する技術や制度についての時評集。『人文情報学月報』なるメルマガの2015年から2018年の連載をまとめたもので、5ページ程度の話題が45回続く。著者は1987年生まれの国文学研究資料館の特任助教である。 史料や地域資料のアーカイブの紹介が主で、一通りその中身について解説したあとに、使い勝手の悪い点にいちいちいちゃもんを付けてくれるところが楽しい。こういう指摘は大御所になるか若いときでないとできないよね。読んだ印象では、分類の不合理性、メタデータの不足、利用制限、説明の欠如の四つが、使い勝手を悪くしている要因のようだ。このほか、クリエイティブ・コモンズ、文字コード、クラウド・ソーシング、リンクト・データなど、技術や制度に

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  • 貿易と異民族との関係から中国各王朝の社会を読み解く - 29Lib 分館

    隆司『世界史とつなげて学ぶ中国全史』東洋経済新報社, 2019. タイトル通りの中国通史だが、単なる王朝交替史ではなく、貿易と経済について詳しいのが特徴。といってもビジネスマン向けの一般歴史書であり、微に入り細に穿つという内容ではない。また気候変動の影響についても言及があり、こういう点も最近の歴史書らしい。 古代から元に至るまで、中国は、シルクロードを通じて国際貿易に開かれた他民族国家だったという描かれ方をしている。遊牧民と農耕民の間には緊張があり、それが中国歴史を動かしてきた。秦漢の頃は、長江流域よりも遊牧民と対峙する黄河流域のほうが技術革新に優れており、政治的に優位に立っていた。だが、唐宋時代には江南の開発が進んで、人口の割合や経済力において長江流域が北部を凌駕するようになる。石炭を燃料にするというエネルギー革命もあったとのこと。また、シルクロードの商人と関係を結んだモンゴル帝国

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  • 平等な学校教育をめぐる葛藤 - 29Lib 分館

    広田照幸『教育は何をなすべきか:能力・職業・市民』岩波書店, 2015. 日教育の方向性についての論考集で、2005年から2013年の間に発表された論文や講演の記事などを収録している。著者は日教育社会学会の会長で、日大学文理学部教育学科の教授である。僕の同僚ということになる。多くの著書があるが、最初に読むならば書よりも『日人のしつけは衰退したか』(講談社現代新書, 1999)が、非常にスリリングで面白く、かつ入手しやすいのでお勧めである。 構成は前半と後半に分かれており、前半では自由、メリトクラシー、生れつきの能力差、職業教育、市民教育、ボランティアについて論じられる。後半では、大正時代の成城学園の教育方針から教育の在り方を考察する論考、戦前の職業教育、青少年政策、今後の日教育について論じられる。「平等な教育機会を子どもに保障すること」、この認識が全体のトーンを決定している

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  • 学力・知能における下位16%のこどもたち - 29Lib 分館

    朝比奈なを『ルポ 教育困難校』朝日新書, 朝日新聞出版, 2019. 宮口幸治『ケーキの切れない非行少年たち』新潮新書, 新潮社, 2019. 低学力層について報告する二作。片方は一応普通に日常生活をおくっている高校生の話であり、一方は犯罪者の話なので、並べて紹介するのは前者に失礼なことなのかもしれない。だが、二つの書籍が提示する低学力≒低知能の目安がほぼ共通していたこともあって、記録しておきたくなった。 『ルポ 教育困難校』は底辺高校に教師として勤めた経験のある著者によって書かれている。チャイムが鳴ってから生徒を席につかせるのまでに時間を取られる、トラブル対処に教員のエネルギーに割かれて教育どころではない、扱いにくい生徒は自主退学するように誘導する、などなどの実情が描かれている。巷間問題になっている「ブラック校則」なども、底辺高校では秩序維持のための現実的な対処方法なのである。おおよそ偏

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  • 原書で隠されていたた「図書館」を訳書で敢えてタイトルに含める - 29Lib 分館

    デビッド・ボーデン, リン・ロビンソン『図書館情報学概論』田村俊作監訳, 塩崎亮訳, 勁草書房, 2019. 邦題タイトル通り。なのだが、原書はIntroduction to information science (Facet publishing, 2012.)で、目次にも「図書館」の語は出てこない。文章中では「ライブラリアン」の語が避けられて「情報専門職」と記される。「図書館から離れた、ネット時代の新しい図書館情報学なのだろう」と予想して手にとったが、読んでみたらオ―ソドックスな図書館情報学の教科書だった。僕が大学院生の頃(2000年前後)に目にした欧米の学者がたくさん言及されている。著者二人は英国の図書館情報学者(情報学者?)である。 とはいえ、大学院生または研究者向けの内容レベルである。その研究領域に含まれるトピックの広がりが確認でき、かつ整理されているというのがポイントだろう。

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  • 公民館をめぐる論争史、かなり硬め - 29Lib 分館

    牧野篤『公民館はどう語られてきたのか:小さな社会をたくさんつくる1』東京大学出版会, 2018. 公民館の言説史。著者は東大の先生で、書の内容はもともと『月刊公民館』の連載だったとのこと。著者の責任ではないけれども、引用された過去の議論における「戦後民主主義」的装い(+少々のマルクス主義)には読んでてうんざりするところはある。「民主主義」「疎外」「階級」「矛盾」などの語が頻発する一方で、理念的な議論に終始し、具体的な教育内容や学習方法に落とし込まれてゆくわけではないからだ。当時の議論はそういうものだった認識して読み進める必要があるだろう。 書によれば、公民館は、戦前にいくつかのルーツをもつものの、終戦後に文部省次官の寺中作雄によって住民主体の社会教育機関として構想された。いろいろな役割が課せられているけれども、主となるイメージは「農村の集会所」というところだろうか。関係者の間では、地域

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  • 安全・品行方正かつ経済活発な素晴らしき監視社会 - 29Lib 分館

    梶谷懐, 高口康太『幸福な監視国家・中国NHK出版新書, NHK出版, 2019. 現代中国のレポートでもあり、監視社会論でもある。報道でその名を聞いたことはあるけれども詳しいことはよくわからない中国の「社会信用システム」をめぐる報告と考察であり、そのメリットとデメリットをバランスよく伝える内容となっている。検閲制度にも言及がある。 前半は現状レポートで、社会信用システムの詳しい解説である。中央の共産党政府が監視するオーウェル的なものではなく、民間企業による大規模システムか、または地方政府による小規模なものが複数並列しているという。それらが導入された事情だが、中国には個人の信用を保証する──金を貸してきちんと返す人か、あるいは仕事を任せて大丈夫な人か、など──仕組みが先進国ほど整っていない、この問題を克服すべく人物を点数化するシステムを構築しよう、というわけである。そのメリットは明らかで

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  • 文化から学習するよう自己家畜化した動物、それが人間である、と - 29Lib 分館

    ジョセフ・ヘンリック『文化がヒトを進化させた:人類の繁栄と〈文化-遺伝子革命〉』今西康子訳, 白揚社, 2019. 進化論を取り入れた人類学。著者は、航空機のエンジニアから文化人類学者に転身したという経歴の持ち主で、Peter Richersonとの共同研究で知られるRobert Boydの弟子である。ということは、書は"dual inheritance theory"(「二重相続理論」または「二重継承理論」と訳される)の解説書、と考えていいのだろうか。原書は、The secret of our success: how culture is driving human evolution, domesticating our species, and making us smarter (Princeton Univ Press, 2015.)である。 二重相続理論のニュアンスは、僕が

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  • 学校図書館をめぐる議論の見取り図として - 29Lib 分館

    彰『教育改革のための学校図書館』東京大学出版会, 2019. 日の学校図書館の制度上の歴史と現状、海外事情など。中身は2000年代から最近にかけての著者の論文をまとめたものである。ただし、A5サイズで300頁、かつフォントが小さいので、かなりの分量に感じる。「学校図書館」というと誰もがかつて経験した小さな図書室を思い浮かべるだろう。放課後に訪れて好きな(そこに所蔵されている範囲内だが)を読めるが、授業時間中には訪れない(もしかしたらごくまれに授業で使うことがあるかもしれない)。僕の場合、高校を除く小中学校でそこを管理する人が張り付いていたかは記憶がない。学校図書館というコンセプトはそういう「課外で使う読書施設」という現状に留まるべきではないことを、書は示してゆく。 著者によれば、そもそもGHQの占領下で学校図書館というコンセプトが移入された理由は、ジョン・デューイが唱える経験主義

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  • 新テストの駄目さは思想の問題か、作問技術の問題か - 29Lib 分館

    紅野謙介『国語教育の危機:大学入学共通テストと新学習指導要領』ちくま新書, 筑摩書房, 2018. センター試験廃止後の、2020年度から始まる「大学入学共通テスト」を批判する内容である。といってもまだ実施されていないテストであるため、2017年に公表された記述式テストの問題例と、同年に実施された試行調査のためのプレテストの二つを分析するのに大半の頁を割いている。加えて、学習指導要領の検討が少々ある。著者は日文学研究者で、麻布高校での教員経験がある。今年度から日大学の文理学部長の任に就いており、僕もヒラ教員として一度だけお話したことがある。 多くの報道において、「大学入学共通テスト」への関心は記述式回答の客観性を保つことや採点コストに集中しがちだった。書はそうした問題にも言及しつつも、新テストがこれまでの「国語」とはかなり違った方向を目指したものであることを明らかにしている。第一に、

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  • お金には換算できない教育の成果を測る。ただし領域限定 - 29Lib 分館

    OECD教育研究革新センター『学習の社会的成果:健康、市民・社会的関与と社会関係資』NPO法人教育テスト研究センター監訳 ; 坂巻弘之, 佐藤郡衛, 川崎誠司訳, 明石書店, 2008. 学校教育だけでなく社会教育=生涯学習も含めて、その効果を広範に把握してみようという試みである。といっても、独自の調査や新たな分析があるわけではなく、概念提示とレビューがその主な内容である。現状の研究の進展状況を知る(といっても原著は2007年)というのが期待すべきものだろう。 まずは「先進国各国における教育への公的投資に対する説明責任の浮上」というのが背景として示される。そこで、教育の成果を金銭的成果と非金銭的成果に分け、さらにそれを教育を受けた人にもたらされる成果と、人以外にももたらさられる公共の成果との四つに分割する。このうち、人あるいは人以外にもたらされる非金銭的成果を「社会的成果(soc

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  • 米国において専門知が軽視されている現状の報告 - 29Lib 分館

    トム・ニコルズ『専門知は、もういらないのか:無知礼賛と民主主義』高里ひろ訳, みすず書房, 2019. 反知性主義論。専門家を拒絶する現代アメリカの歪んだ言論状況についてレポートし考察する内容であり、難しい概念もなく一般の人でも読みやすいだろう。著者はアメリカ海軍大学の教授で、専門はロシア研究である。原書は、The death of expertise : the campaign against established knowledge and why it matters (Oxford University Press, 2017.)である。 はじめのほうで「専門家が素人の会話が疲れるものになった」現象を確認したあと、大学教育の失敗(学生を顧客とみることで大学での議論が避けられるようになったこと)、インターネットの普及(フェイクニュースの拡散と、そもそも大半の人はネットの短い記事す

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  • 高等教育は高コストで税金の無駄だと主張する論争の書 - 29Lib 分館

    ブライアン・カプラン『大学なんか行っても意味はない?:教育反対の経済学』月谷真紀訳, みすず書房, 2019. 高等教育は「社会的に見て」無駄だから大学への公費支出を控えよ、と主張するやや難の部類の一般向け書籍。著者は米国の経済学者でありかつ大学教授。以前このブログで同著者の『選挙の経済学』を紹介したことがある。書の原書は、The case against education : why the education system is a waste of time and money (Princeton University Press, 2018.)である。なお、議論の範囲は高校から大学院修士課程までで、中心は大学教育である。小中学校は対象ではない。 その主張は次のようなものだ。大学は仕事に直結している知識をほとんど教えていないことは明白で、なおかつ教育擁護論がよく使う論法「学習内

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  • オンライン社会調査事始め、ただし内容はけっこう高度 - 29Lib 分館

    マシュー・J.サルガニック『ビット・バイ・ビット:デジタル社会調査入門』瀧川裕貴, 常松淳, 阪拓人, 大林真也訳, 有斐閣, 2019. インターネットを使った社会調査の教科書。マニュアル的なものではなく、方法論についての議論が中心だ。研究者または大学院生向けの内容である。著者はダンカン・ワッツの弟子で、有名なミュージックラボ実験(参考)の論文で第一著者になっている若手研究者である。研究事例が豊富で、読書案内や演習問題も充実している(ただし回答はない)。個人的には、研究事例集として楽しめた。 内容は、ビッグデータの扱い方と注意点(巨大かつ常時データが入手可能であることが多いが、バイアスを持つ可能性があることなど)、調査やアンケートの心得(誤差の問題など)、実験方法(RCTが望ましいけれども、そうすることができない場合の実験設計など)、調査対象者や協力者の見つけ方(ネットを通じた募集方法

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