平野は、いま純文学は1万部売れれば御の字の時代になってきていると言う。とすると、印税は150万円ほど。純文学作家は量産できないから、これでは食べてはいけない。東は、そんな状況においては「文学を外部に開く」必要があり、平野がその「責任」を果たそうとしていることを評価している。それはやはり「作家の自己プロデュース能力」ということになる。しかし、それをしてきた東自身が「疲れてしまった」とも言っている。批評や小説の置かれた状況は、それほど厳しい。東浩紀や平野啓一郎という、いま批評と小説の中軸を担っている2人だからこそ危機意識は強い。僕はこの2人の職業意識に期待したいと思う。 これは商業主義として批判すべき態度とは思われない。国民作家と言われる夏目漱石も、朝日新聞社入社第1作の『虞美人草』からして、当時話題をさらっていた東京勧業博覧会を書き込んで読者サービスに努めながら、道徳的なテーマ設定において失