彼の死ではなく、彼の生について書こうと思う。彼がなぜ死んだのかではなく、彼がどう生きていたのか、僕が最後に見た舞台のことを書きとめておこうと思う。 5月にこの舞台、三浦春馬の最後の舞台になってしまった『ホイッスル・ダウン・ザ・ウィンド』2020年3月27日の公演の記事を文春オンラインで書いた時、僕は意図的に彼らのカーテンコールでの言葉を記事に直接全文引用することを避けた。理由は5月上旬当時、SNSに激しく満ちていた演劇バッシングの空気だ。 今からここに書く文章を読んで貰えばわかるが、あの日の舞台で出演者たちが語った言葉はいずれも真摯で誠実な言葉ばかりだ。だが、緊急事態に突入した5月上旬当時の状況では、演劇関係者のわずかにも不用意な発言はことごとくSNSで激しく糾弾されており、舞台で信頼する観客に向けて語った言葉も、片言隻句を「失言」として捉え糾弾されかねない空気があった。