出版社で営業という仕事をしていると、本を読むことが仕事の一つとなります。もちろん仕事ですから自分の趣味で選んだ本を読むのではなく、自社で作った本を読むわけですが、昨年末に刊行した内藤篤『円山町瀬戸際日誌――名画座シネマヴェーラ渋谷の10年』 を読んだ感想をここで書かせてもらえればと思います。 著者の内藤さんは著作権関係の本を何冊も出されている弁護士の方です。そんな方が2006年1月、渋谷・円山町にシネマヴェーラ渋谷という名画座を開館し、自ら館主となりました。この本は開館した2006年から2015年までの山あり谷ありだったシネマヴェーラ渋谷の祝10周年の記録です。 出版業界も他業界のことをいえる立場ではありませんが、名画座を取り巻く環境もいろいろと厳しい中、「大きく儲かることもないけれど、激しく損をすることもないだろう」(13頁)という言葉に押され、一介の素人が弁護士との二足のわらじを履いて