例えば僕の研究している領域でもマルクス主義+熱心なキリスト教徒という経済学者がいる。これは人間のアイデンティティを単一のものとしてしかみなさい人たちからみると矛盾しているか、なんらかのごまかしているようにしか思えないだろう。でも、人間のアイデンティティの複数性があたりまえだと思えばこの「矛盾」とか「ごまかし」とかいう見方はあてはまらないだろう。 「日常生活のなかでわれわれは、自分がさまざまな集団の一員だと考えている。そのすべてに所属しているのだ。国籍、居住地、性別、階級、政治信条、職業、雇用状況、食習慣、好きなスポーツ、好きな音楽、社会活動を通じて、われわれは多様な集団に属している。こうした集合体のすべてに人は同時に所属しており、それぞれが特定のアイデンティティをその人に付与している。どの集団をとりあげても、その人の唯一のアイデンティティ、また唯一の帰属集団として扱うことはできない」20頁