怖い話に関するonboumaruのブックマーク (178)

  • 山鬼妖艶 | 砂村隠亡丸の余苦在話-よくあるはなし-

    こんな話がございます。 昔、陸奥国は遠野ト申すところに、三人の兄弟がおりました。 仮に上から、太郎、次郎、三郎トいたしますが。 太郎は四十を超えておりましたが、いまだに独り身でございまして。 長男である手前、顔にこそ出しはしませんでしたが。 内心、このことをひどく気に病んでおりました。 次郎は若いうちに美しいを娶りまして。 子宝にも恵まれて、夫婦仲も非常に良い。 人も、身持ちの固い男でございます。 三郎は兄二人とは年が離れておりまして。 これはまだ三十にもなりませんで、やはり独り身でございます。 ところが、同じ独り身でも長兄の太郎とは意味が違う。 手の施しようのない放蕩者で、相当の浮き名を流している。 挙句に亡き父から勘当されて、友人の家に厄介になっているという。 さて、ある時、長兄の太郎に縁談が舞い込みまして。 太郎さえ良ければ、先方はすでに承諾しているト申します。 しかし、太郎の方

    山鬼妖艶 | 砂村隠亡丸の余苦在話-よくあるはなし-
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    onboumaru 2016/07/26
    岩手遠野の民話より
  • 指切り首切り肝試し | 砂村隠亡丸の余苦在話-よくあるはなし-

    こんな話がございます。 昔、紀州のある村に、強欲者の夫婦がございました。 よく、己の損得勘定にばかりうるさい者を指しまして。 「あの人は強欲だ」ナドと申しますが。 この夫婦は少し、たちが違う。 そもそも勘定ナドというものがございません。 とにかく、手に入ると分かったものがございますト。 たとえ損が目に見えていても手に入れないと気が済まない。 以前、肥溜めに誤って煙管を落とした旅人がございまして。 人はとうに諦め、捨ておいて去ろうといたしましたが。 それを知った夫婦は、半日かけて肥だらけになりながら。 それをようやく掬い上げて、持ち帰ったことがあるという。 ところが、考えてみるト、亭主も女房も煙草を喫みません。 誰かに売ろうにも、糞まみれの煙管を買おう者などどこにもいない。 今では、二歳になる子どものおもちゃになっているト申しますが。 こうなるト、もはや心の病でございましょうナ。 もっとも

    指切り首切り肝試し | 砂村隠亡丸の余苦在話-よくあるはなし-
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    onboumaru 2016/07/22
    「諸国百物語」より
  • 鉄鼠頼豪 | 砂村隠亡丸の余苦在話-よくあるはなし-

    こんな話がございます。 平安の昔、白河天皇の御代の話でございます。 白河天皇は二十歳の若さで即位なされました。 ところが、その後六年間、世継ぎに恵まれませんでしたので。 次第に、異母弟らに皇位を継がせる話が持ち上がりまして。 天皇は非常に心もとない日々を送っておられました。 そこである時、僧侶を招いて祈祷をさせることにいたしましたが。 これが、当時、祈祷の効験あらたかなることで知られていたという、 三井寺(みいでら)の僧、頼豪阿闍梨(らいごう あじゃり)でございます。 天皇は、頼豪を召し出しますト。 「ともかくも、皇子さえ生まれるようにしてくれれば良い。それさえ叶えば、何でも望むものを褒美に取らせるぞ」 ト、仰せられました。 頼豪が畏まって申し上げますことには。 「久年、深く望んでおりますことがございます。もし主上(おかみ)の仰せにご相違さえなければ、皇子のご誕生はきっと叶えてご覧に入れま

    鉄鼠頼豪 | 砂村隠亡丸の余苦在話-よくあるはなし-
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    onboumaru 2016/07/21
    「源平盛衰記」より
  • 画中の人 | 砂村隠亡丸の余苦在話-よくあるはなし-

    こんな話がございます。 唐の国の話でございます。 ある地方に冉従長(せんじゅうちょう)ト申す軍人がございました。 この者は詩や書画の類をこよなく愛しまして。 これらに従事する者を篤く庇護しておりました。 そのため、冉の邸宅には様々な文人、画人が集まって暮らしておりました。 ある時、そのうちのひとりが竹林の七賢人の画を描きました。 竹林の七賢人ト申しますのは、三国末期に現れた七人の世捨て人のことでございまして。 俗世を嫌って酒を愛し、山中に籠もって談論を交わしたトされておりますが。 かの国でも、また我が日のでも、古くから画題として好まれてまいりました。 その頭領格を阮籍(げんせき)ト申しまして。 俗物が来ると「白眼」で追い返し。 好人物は「青眼」で迎えたト伝えられております。 いわゆる「白眼視」の謂われですナ。 さて、この冉従長の邸宅に集まる者たち自身が、竹林の七賢人を気取ったところがござ

    画中の人 | 砂村隠亡丸の余苦在話-よくあるはなし-
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    onboumaru 2016/07/21
    唐代の伝奇小説「酉陽雑俎」より
  • 砧(きぬた) | 砂村隠亡丸の余苦在話-よくあるはなし-

    こんな話がございます。 足利時代の話でございます。 筑前国の芦屋ト申すところに、何某という男がございました。 この男は、訴訟のために京に上って、はや三年が経っておりました。 この頃の訴訟というのは、大抵が武士同士の土地を巡る争いでございまして。 所領権を巡って諍いが起こりますト、将軍家に訴えて仲裁をしてもらいます。 ところが、こうした諍いはあちらこちらで起きておりますから。 ひとたび訴えを起こしましても、裁決が下るまでに相当の時間がかかります。 故郷にはが寂しく待っている。 何某は気がかりでなりません。 しかし、訴訟はなかなか終わりそうにない。 そこで、連れて来ていた侍女の夕霧を先に返しまして。 ともかくも「今年の暮れには必ず帰る」旨を伝えさせることにした。 夕霧は少女の身ながら、京から筑紫まで一人で旅を続けまして。 ようやく、秋の終わりに芦屋の里へたどり着きました。 すでに陽は傾きはじ

    砧(きぬた) | 砂村隠亡丸の余苦在話-よくあるはなし-
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    onboumaru 2016/07/19
    世阿弥作の謡曲「砧」より
  • 民話の怖い話より 「継母と顔の赤い鳥」 | 砂村隠亡丸の余苦在話-よくあるはなし-

    こんな話がございます。 ある村に、五人暮らしの一家がありました。 両親と子どもたち三人で、仲良く暮らしておりましたが。 ある時、母親が病に臥せりまして。 看病虚しく、帰らぬ人となってしまった。 子どもたちはまだ幼いですから。 「かかさん」の死をどうしても受け入れることが出来ません。 上の娘、中の娘、下の倅と、三人で毎日を泣き暮らしておりました。 父親は、そんな子どもたちの姿を見ると、不憫でならない。 どうにかして、男手一つでしっかり育ててやらないといけない。 トハ、思いましたが。 それもこれも、死んだ女房に対する義理からでございます。 ところが、こう毎日、子どもたちが泣いているのを目にしますト。 女房に対する自分の義理より、大事なものがあるのではないか。 子どもたちを癒やしてやることのほうが、よほど大事なのではあるまいか。 そう思うようになりまして。 そこで子どもたちを呼び集めて、相談をい

    民話の怖い話より 「継母と顔の赤い鳥」 | 砂村隠亡丸の余苦在話-よくあるはなし-
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    onboumaru 2016/07/18
    福岡の民話より
  • 冥土への抜け穴 | 砂村隠亡丸の余苦在話-よくあるはなし-

    こんな話がございます。 ある家中に、大川判右衛門ト申す武士がございました。 槍持乗馬を引き連れて――ト伝わりますから。 まず中の上といったところでございましょう。 家中ではかなり信頼を置かれていたようでございます。 ある日、この判右衛門に宛てて、豊後の国元から書状が届きました。 女手で書かれてあるのを、やや不安に思いながら開封してみますト。 兄嫁が書いて寄越したものでございました。 「去る十七日の夜、我が夫、判兵衛が、妙福寺における棋会において、些細な諍いから寺田弥平次に斬られました。夫は死に、仇はすでに当地から逃げ去っております。私どもには子がなく、また私は女の身でございます。仇討ちをお頼みできるのは、貴方様より他にございません」 悲痛な叫びが綴られている。 書状を一読するト、判右衛門はすぐに立ち上がりました。 主君に暇を申し出まして、一子、判八を連れ、江戸を出立する。 ト申しましても、

    冥土への抜け穴 | 砂村隠亡丸の余苦在話-よくあるはなし-
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    onboumaru 2016/07/15
    井原西鶴「西鶴諸国ばなし」より
  • 死骸に乗る男 | 砂村隠亡丸の余苦在話-よくあるはなし-

    こんな話がございます。 平安の昔の話でございます。 ある男がございまして。 どんな事情があったかは知りませんが。 長年連れ添ったを離縁しまして。 一人で家を出ていってしまいました。 はこれを心から怨む。 嘆き悲しんで日を送る。 そのうちに、ついに患いつきまして。 挙句に亡くなってしまいました。 その女には、親兄弟も親しい者もございませんでしたので。 弔いを出してくれる者もなければ、死を気にかけてくれる者さえない。 亡骸は、家の中に打ち捨てられたままトなっておりました。 ところが、怨念というものは恐ろしいものでございます。 女の亡骸からは、髪の毛が一向に抜け落ちません。 肉は腐り落ちても、骨はいつまでも整然ト繋がって崩れない。 その様子を、隣家の者が壁の穴から毎日覗き見ておりまして。 ただでさえ、死霊の怨念に恐れ慄いておりましたが。 女の死骸を、常に異様な光が包んでいる。 家鳴りも始終止

    死骸に乗る男 | 砂村隠亡丸の余苦在話-よくあるはなし-
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    onboumaru 2016/07/14
    「今昔物語集」より
  • 猫定 | 砂村隠亡丸の余苦在話-よくあるはなし-

    こんな話がございます。 両国の回向院に塚トいうものがございます。 が死にますト、飼い主が回向料とともに、の亡骸を持ち込みまして。 寺の僧侶がお経を読んで、を葬ってくれるという。 これは、この塚に最初に入ったというの話でございます。 八丁堀の玉子屋新道に、魚屋を営む定吉ト申す者がございました。 もっとも、魚屋とは名ばかりで、その実は博奕打ちでございます。 毎日を遊んで暮らしている。 この日も、朝湯の帰りに馴染みの三河屋という居酒屋に立ち寄りまして。 風呂あがりの一杯とばかりに、呑気に引っ掛けておりますト。 ポカッ、ポカッと、頭の上から妙な音が聞こえてくる。 博奕打ちというのは、我々とはものの考え方が異なっているようで。 ――板に何かを叩きつける音がする。 なるほど、やってやがるな―― ト、てっきり丁半博打の壺を伏せる音と勘違いいたしまして。 「おい、六さん」 店の者を呼びつけます。

    猫定 | 砂村隠亡丸の余苦在話-よくあるはなし-
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    onboumaru 2016/07/13
    落語「猫定」より
  • 怪異に精気を抜かれる宿 | 砂村隠亡丸の余苦在話-よくあるはなし-

    こんな話がございます。 唐土(もろこし)の漢の時代の話でございます。 かの国の汝南郡は汝陽なる地に。 西門亭ト申す旅舎がございましたが。 この宿はある不名誉な噂で、人々によく知られておりました。 それは、夜に二階に泊まる者があるト。 必ず怪異があるトいうことでして。 何者か、いや、呪いか祟りか、ともかく何らかの気が現れまして。 旅客の精気を、白髪になるまで抜き取ってしまう。 その噂が遠く都まで届いているほどでございました。 さて、ここに鄭奇と申す豪胆な男がございまして。 この者は汝南郡の役人でございますが。 こちらは神をも恐れぬことで、人々からよく知られておりました。 ある時、鄭奇は所用で汝陽へ向かいましたが。 あと数里ほどというところで、日が暮れてまいりました。 ト、そこへ、 「あの、お役人様でございますか」 暗がりから突然声を掛けてきた者がある。 見れば若い女で、不安げな様子でこちらを

    怪異に精気を抜かれる宿 | 砂村隠亡丸の余苦在話-よくあるはなし-
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    onboumaru 2016/07/12
    「捜神記」より
  • 民話の怖い話より 「猫と南瓜」 | 砂村隠亡丸の余苦在話-よくあるはなし-

    こんな話がございます。 あるところに夫婦がございました。 長年、子宝に恵まれず、寂しく思っておりますうちに。 女房もそれなりの年になり、もう諦めようということになりまして。 二人はあれこれ考えた末、何か動物を飼うことにいたしました。 ちょうどその折、畑に一匹の子が迷い込みました。 生まれたばかりらしく、目がまだ塞がっております。 ミャーミャーと乳を求めて鳴く声が不憫に思えまして。 夫婦は、このを我が子と思って育てることに決めました。 村は漁村から近い。 毎日漁師が魚と野菜を交換しにやってくる。 毎朝の事は魚でございます。 を育てるにはもってこいの境涯で。 女房は自分の魚を毎日、半分ずつ分けてやる。 も喜んでそれをべてどんどん大きくなる。 にゃーと鳴かれると可愛いですから、欲しがるものは何でもやる。 一年もした頃には、でっぷり太った大になった。 その年の秋の初めのこと。 村に六

    民話の怖い話より 「猫と南瓜」 | 砂村隠亡丸の余苦在話-よくあるはなし-
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    onboumaru 2016/07/11
    民話の怖い話より
  • 座敷牢と狂女 お夏清十郎 | 砂村隠亡丸の余苦在話-よくあるはなし-

    こんな話がございます。 播州姫路の城下に但馬屋ト申す大店がございました。 主人は九右衛門ト申しまして、妹が一人ございます。 名をお夏ト申しましたが、これが大層評判の美人でございました。 当時、京の島原に、揚羽蝶の紋入りの着物を着た評判の遊女がございましたが。 お夏の評判はそれをも凌いでいたと申しますから、美人の程が伺えます。 鄙には稀というどころではなく、遠く京でも噂になるほどでございました。 さて、この但馬屋に清十郎ト申す手代がおりました。 真面目で律儀一徹の男ではございましたが。 これがまた稀代の色男でございまして。 店中の女奉公人が、こぞって熱を上げている。 実は、この清十郎、元を正せば室津の造り酒屋の若旦那でございます。 美男なのをいいことに、早くから放蕩三昧を尽くしまして。 親から勘当された挙句、遊女と心中騒ぎを起こしましたが。 自分一人が助けられ、相手の女を死なせてしまったトい

    座敷牢と狂女 お夏清十郎 | 砂村隠亡丸の余苦在話-よくあるはなし-
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    onboumaru 2016/07/10
    井原西鶴「好色五人女」より
  • 海賊と死ねない男 | 砂村隠亡丸の余苦在話-よくあるはなし-

    こんな話がございます。 平安の昔の話でございます。 摂津国に非常に年老いた僧がございました。 九十を超えてもなお、仏道修行に励んでおります。 いつもじっと目をつぶって、ぶつぶつと経を読んでいる。 ある時、客人が「海賊に遭いました」と言うのを聞きまして。 この僧が目をつぶったまま答えますことには、 「私も若いころには、そんなことがございました。いや、襲われる方ではなくて、襲う方でございましたがな」 トこともなげに言う。 客人はびっくりして、 「一体どういうわけで」 ト尋ねますト、老僧は昔語りを始めました。 若かりし頃、老僧は淡路六郎と名乗る海賊でございました。 ある時、安芸のあたりの島に停泊しておりますト。 一艘の船が六郎らの船の方へ漕ぎ寄せてまいりました。 若い男の姿が見えましたが、それが船主のようでございます。 覗き見ると、荷をたくさん積んではいるようですが。 貴人らしき若い男の他には、

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    onboumaru 2016/07/08
    宇治拾遺物語より
  • 黒い腹の中 | 砂村隠亡丸の余苦在話-よくあるはなし-

    こんな話がございます。 唐の国の話でございます。 陽羨という地に許彦(きょげん)と申す者がおりました。 七十の坂を過ぎておりますが、生涯独り身でございます。 独り身と申しますのは、がいないという意味ばかりではない。 女の肌に触れることのないまま、いつしか老境を迎えたのでございました。 女嫌いだったわけではございません。 縁がなかったわけでもございません。 自分でもどうしてこうなったのだろうト、許彦はよく考えますが。 考えれば考えるほど、原因は己の側にあるとしか思えない。 ――女嫌いではない、女が怖かったのだ。 女が恐怖を秘めているから怖いのではなく。 己が、女に接する勇気をなかなか持てないままに。 わしは今日まで老いてしまったのだ。 今さら、そんな結論に至ったところで、老爺に出来ることはもうございませんが。 許彦は、考えても仕方のないことを毎日考えながら、山道を登り降りするのでございます

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    onboumaru 2016/07/07
    六朝期の志怪小説「続斉諧記」より。井原西鶴「西鶴諸国ばなし」『残るものとて金の鍋』の原拠。
  • 文弥殺し 宇都谷峠 | 砂村隠亡丸の余苦在話-よくあるはなし-

    こんな話がございます。 江戸の柴井町に、居酒屋を営む伊丹屋十兵衛と申す者がございました。 この十兵衛はもと、武士でございます。 大名佐々木家の重臣、尾花六郎左衛門の家来でございましたが。 主人、尾花の急逝以来、町方で商人として身を立てておりました。 主人の尾花六郎左衛門の死は、切腹によるものでございました。 家中で敵対していた奸臣、筑田喜蔵(つくだきぞう)の罠にかかったのでございます。 佐々木家には「花形の茶入れ」ト申す家宝がございましたが。 尾花はこれを管理する立場にございました。 筑田はそこに目をつけ、己の家来の小兵衛と申す者と共謀いたしまして。 家宝を盗み出し、密かに質に入れたのでございます。 尾花は、家宝紛失の責任を負わされ、詰め腹を切らされたのでございました。 仕えた尾花が、このように突然世を去りましたので。 十兵衛は町人となって、居酒屋を切り盛りしておりましたが。 ある時、ふと

    文弥殺し 宇都谷峠 | 砂村隠亡丸の余苦在話-よくあるはなし-
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    onboumaru 2016/07/06
    河竹黙阿弥作の歌舞伎「蔦紅葉宇都谷峠」より
  • 鍛冶屋の婆 | 砂村隠亡丸の余苦在話-よくあるはなし-

    こんな話がございます。 昔、ある旅の商人が、隠岐国の山を越している途中で日が暮れてしまいました。 それでも山の頂上まで上っていきますト、大きな松の木がございました。 身の丈より高いところに、大きな股がある。 商人はよじ登って、そこに横たわり眠ることにいたしました。 夜更け。 商人がぐっすり眠っておりますト。 何やら木の下の方から物音がする。 商人は目を覚まして驚いた。 ナント、山がざっと数十匹、木の周りを取り囲んでいる。 鋭く夜目を光らせて、こちらを狙い、うなっている。 いつ飛びかかってくるのではないかと、商人は気が気でない。 とは言え、こう取り囲まれては出来ることなどございません。 ただ、立ち去ってくれるのを待ちながら、そのうなり声に耳を傾けている。 ト、そのうちに商人はとんでもないことに気がついた。 山たちはただうなっているのではない。 口々に人語をつぶやいているのでございます。

    鍛冶屋の婆 | 砂村隠亡丸の余苦在話-よくあるはなし-
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    onboumaru 2016/07/05
    隠岐の民話より
  • 小幡小平次 | 砂村隠亡丸の余苦在話-よくあるはなし-

    こんな話がございます。 元禄十七年、初代市川團十郎は、舞台上で亡くなりました。 市村座での興行中に、杉山半六ト申す役者に刺されたものでございます。 二代目を継ぎましたのは、初代の実子、九蔵でございました。 さて、この時代に、名を小幡小平次(こはだ こへいじ)ト申す役者がおりまして。 小幡(こばた)と書いて、どうして「こはだ」と読むのかト申しますト。 ひとつには故郷である小幡村にちなんだということもございますが。 師匠の名が「鰻太郎兵衛(うなぎ たろうびょうえ)」と申しまして。 これは森田座の創始者ともなる当時の名優でございます。 対して、弟子の小平次は芝居が非常に下手でございまして。 うまい鰻に対して、まずい小鰭(こはだ)ということで、こう呼ばれたそうでございます。 この小幡小平次でございますが、ある女と深い仲になり、にいたしました。 それが、あろうことか、初代團十郎を刺して処刑された半

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    onboumaru 2016/07/04
    山東京伝「復讐奇談安積沼」より
  • 袈裟と盛遠 文覚発心譚 | 砂村隠亡丸の余苦在話-よくあるはなし-

    こんな話がございます。 源頼朝公の腹心に、文覚(もんがく)という僧侶がございました。 俗名を遠藤盛遠(もりとお)と申しまして。 摂津源氏の渡辺党の傍流、遠藤氏の出でございます。 まだ文覚が十七歳の血気盛んな若武者だった頃のこと。 盛遠には衣川(ころもがわ)と申す叔母が一人おりました。 奥州衣川に縁付いたため、そう呼ばれておりましたが。 当時はすでに故郷に戻っておりました。 若いころは見目形麗しく、心ばえもやさしいことで評判でございましたが。 今はまだ若いながら寡婦となり、ひとり寂しく暮らしております。 この衣川には愛娘がひとりおりまして。 名をあとまと申しましたが。 衣川の子だというので、人々からは「袈裟」と呼ばれておりました。 この娘もまた、親に似て美人でございます。 青い黛を引いた眉に、丹花のごとき赤い唇。 その愛らしさは楊貴妃もかくやと思わせるほどで。 十四の春を迎えた頃には、名だた

    袈裟と盛遠 文覚発心譚 | 砂村隠亡丸の余苦在話-よくあるはなし-
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    onboumaru 2016/07/03
    「源平盛衰記」より。芥川龍之介「袈裟と盛遠」の原拠。
  • 夜ごとの妻 | 砂村隠亡丸の余苦在話-よくあるはなし-

    こんな話がございます。 唐の国の話でございます。 よく、「ここだけの話だ」ナドと言って、つまらない話を持ってくる人がおりますが。 そういう者に限って、あちこちで「ここだけ」ト言って回っている。 一体、この者の「ここ」はどこまで広いのかト、不思議に思うことがございますが。 秘密はやはり、己の胸に秘めておきたいものでございますナ。 唐の元和年間のこと。 王勝(おうしょう)と蓋夷(がいい)という者がおりまして。 この二人が科挙の試験を受けた時のことでございます。 時節柄、どこも宿は満員で、二人は泊まる場所がない。 あちこち探し求めて、ようやく郡の書史の家で間借りをすることになった。 間もなく、他の部屋も間借り客で埋まり始めましたが。 向かい側にある建物だけは、何故か細い縄で門が塞がれている。 気になって、窓からその建物の一室を覗いて見ますト。 一人用の寝台に粗末な布団、それから枕元にぼろぼろの籠

    夜ごとの妻 | 砂村隠亡丸の余苦在話-よくあるはなし-
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    onboumaru 2016/07/01
    唐代の伝奇小説「続玄怪録」より
  • 雨月物語 青頭巾 | 砂村隠亡丸の余苦在話-よくあるはなし-

    こんな話がございます。 細川山名の両勢力が、京の都を二分して大乱を起こしていた頃のこと。 快庵禅師ト申す有徳の高僧がございました。 若年にして禅の奥義を極め、その後は諸国を遊行しておりましたが。 ある年、美濃国の龍泰寺で一夏を過ごされまして。 秋は奥羽に住まいしようと、北へ向かって旅立たれました。 これは、その途次、下野国に立ち寄られた時のお話でございます。 富田という寂しい里に差し掛かった頃、日がちょうど暮れてまいりました。 そこで一晩の宿を求めようと、禅師はとある民家の軒に立ちましたが。 通りがかった野良帰りの男たちが、禅師の姿を見るや驚いた様子で立ち止まる。 わなわなと震えだしたかと思うト、急に散り散りに駆け出して騒ぎ始めました。 「山から鬼が下りてきたぞ。みんな隠れろッ」 その声に、家の中にいた女子供もみな悲鳴を上げる。 途端にこけつまろびつの大騒ぎになる。 家の主は天秤棒を手に、

    雨月物語 青頭巾 | 砂村隠亡丸の余苦在話-よくあるはなし-
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    onboumaru 2016/06/30
    上田秋成「雨月物語」より