こんな話がございます。 俗に「偕老同穴の契り」ナドと申しまして。 夫婦の仲が睦まじく、固い信義で結ばれていることを指しますが。 「偕(とも)に老い、死しては同じ穴(墓)に入らん」ト。 マ、字句の意味としては、そんなところでございましょうナ。 時々、口説き文句に使う輩もおりますが。 これは気をつけなければなりません。 死して同じ穴に入るためには。 先に死んだ方が、生きている方を待つことになる。 穿った見方と言えばそれまででございますが。 あまり気持ちのよいものではございません。 さてここに、一軒の何の変哲もない百姓家がございまして。 老人とその古女房が住んでおりました。 このふたりがまさに「偕老同穴の契り」を地でゆくような夫婦で。 四十年間、喧嘩一つしたことのない、仲の良い夫婦でございます。 ところが、時というものは残酷なもので。 婆さんのほうが、やがて病の床につく。 爺さんのけなげな看病も