こんな話がございます。 信州は犀川のほとりに貧しい村がございます。 周囲を急峻な崖に囲まれた谷間に、岩がゴロゴロ転がっている。 その中を激流が駆け抜けていくような土地柄で。 この犀川というのが、また困り者の川でございまして。 岩山を無理に削りながら流れてくるので、川幅が狭い。 大雨などが降りますと、すぐに氾濫して辺りの人家を呑み込みます。 この地が貧しいのも、耕す田畑を容易に持てないためでございます。 さて、この犀川の谷に久米路橋という橋がかかっておりましたが。 その橋のたもとに、仁平という百姓が住んでおりました。 名主から猫の額ほどの痩せた田をあてがわれた小作人です。 女房を亡くし、幼い娘のお菊と二人で慎ましやかに暮らしておりました。 朝、仁平が野良へ出ていきますト。 まだ七つのお菊が椀を洗い、掃除、洗濯をする。 家の中の仕事がだいたい片付きますト。 母が遺した毬を取り出して、一人で外で
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