怖い話に関するonboumaruのブックマーク (178)

  • 八王子千人同心 蛇姫様 | 砂村隠亡丸の余苦在話-よくあるはなし-

    こんな話がございます。 武蔵国は多摩郡八王子の地に。 千人同心ト申す集団がございますが。 これは、滅亡した武田家の遺臣たちを家康公が惜しみまして。 甲州口――すなわち甲州武州の境を守らせたのが始まりでございます。 その後は、天下泰平の御世が続いておりますから。 近頃では日光勤番ト申しまして。 東照宮をお守りする役目に就いている。 ひとえに、神君の旧恩に報いんとするものでございましょう。 この者たちの身分は郷士でございます。 侍でありながら、土にまみれて汗を流すという。 半士半農、いわば地侍でございますナ。 十組百人、合わせて千人となることから。 この名がついたト申します。 これらを束ねますのが、その名も千人頭でございまして。 身分は五百石取りの旗格でございます。 甲州街道と陣馬街道の追分に広い屋敷を構えておりますが。 さて、かつてこの屋敷の主人でありましたのが。 萩原頼母(はぎわら たの

    八王子千人同心 蛇姫様 | 砂村隠亡丸の余苦在話-よくあるはなし-
    onboumaru
    onboumaru 2017/03/31
    八王子の伝説より
  • 熊野起請文 烏の祟り | 砂村隠亡丸の余苦在話-よくあるはなし-

    こんな話がございます。 よく「神に誓って」ナドと申す人がございますが。 その神トハどの神かト考えますに。 大抵の場合、それは熊野三山の祭神、熊野権現でございましょう。 三山の各社では、牛王符(ごおうふ)ト申す御札を配っておりまして。 表にはカラスをあしらった烏文字でもって。 「熊野山宝印」「那智瀧宝印」ト記されてある。 その裏に誓いの文句を書き、血判を押しますト。 これが熊野権現に誓いを立てたものトみなされます。 落とし噺に、「三枚起請」なる噺がございますナ。 「末は夫婦に」ト書いた起請文(きしょうもん)を。 さる遊女が大事な客ト取り交わす。 ところが、町内の顔見知り三人が。 同じ起請文を持っていたので騒動になる。 その時、遊女を問い詰めた男のひとりが切る啖呵に。 「イヤで起請を書く時は、熊野でカラスが三羽死ぬ」 トいうものがございます。 熊野ではカラスは神の使いでございます。 嘘の誓いを

    熊野起請文 烏の祟り | 砂村隠亡丸の余苦在話-よくあるはなし-
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    onboumaru 2017/03/06
    平仮名本「因果物語」より
  • 月蝕む夜に鞭打つ女 | 砂村隠亡丸の余苦在話-よくあるはなし-

    こんな話がございます。 平安の昔の話でございます。 うら寂しい夜の通りを。 男がひとり歩いている。 年の頃なら三十ばかり。 背丈はスッと伸びるように高く。 頬の髭は少し赤茶けている。 侍格好の逞しき男児でございます。 「気味の悪い晩だ」 ト、男がふと嘆いたのも無理はない。 その視線の先。 中空に赤銅色の月が浮かんでいる。 雲一つない闇夜に浮かびあがる。 鉄塊がくすぶったような色の丸い月。 輪郭に白い光を僅かに残し。 徐々に闇に蝕まれていく。 今宵はいわゆる月蝕でございます。 「ええいッ」 男はこの何やら不吉らしい気分を振り払うように。 肩をブルブルッと震わせると、力強く歩を進めていった。 ト――。 「チッチッ、チッチッ」 どこからか、鼠でも鳴くような。 イヤ、人が舌でも鳴らすよな。 そんな妙な音が聞こえてくる。 ふと見るト、通りに面した家の半蔀(はじとみ)の中から。 白く艶めかしい腕がニュ

    月蝕む夜に鞭打つ女 | 砂村隠亡丸の余苦在話-よくあるはなし-
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    onboumaru 2017/03/05
    「今昔物語集」より
  • 子育て幽霊 | 砂村隠亡丸の余苦在話-よくあるはなし-

    こんな話がございます。 唐土(もろこし)の話でございます。 淮河と長江に挟まれた宣城の地は。 かつて戦乱に巻き込まれたことがございまして。 人々は取るものも取りあえず、四方へ離散する。 土地は踏みにじられて、ペンペン草も生えない有様トなりました。 さて、その頃のこと。 さる百姓家に一組の若い夫婦がおりましたが。 夫は兵士に取られたまま帰ってこない。 身重のは大きな腹を抱えて、ひとりで家を守っている。 ところが、戦とは無情なものでございます。 ある日、敵軍の兵士たちがこの村へなだれ込み。 命乞いする人々を、容赦なく殺してしまいました。 難を逃れた者たちが帰ってくるト。 この家のが、大きな腹を守るようにして。 土間に倒れ込んでおりました。 「いけない。もう死んでる」 「可哀想に。お腹の子だけでも生かしてやりたかったが」 隣家の者たちは哀れに思いまして。 この女を村の廟の裏手の墓地に葬ってや

    子育て幽霊 | 砂村隠亡丸の余苦在話-よくあるはなし-
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    onboumaru 2017/02/27
    宋代の志怪小説「夷堅志」より
  • 蓮華往生 | 砂村隠亡丸の余苦在話-よくあるはなし-

    こんな話がございます。 世の中誰もが最後はいずれ死にますが。 同じ死ぬならせめて穏やかに死んでいきたいト。 やはり誰もが願っていることでございましょう。 中には、金を積んででも。 満ち足りた死を得ようとする。 そんな御仁もいらっしゃるようで。 役者の初代尾上菊五郎は、もと上方の人でございます。 京都の芝居茶屋の出方、つまり接待役の家に生まれまして。 後に江戸でも知られる大看板となりました。 さて、この菊五郎には愛息がございまして。 名を丑之助ト申しましたが。 これが父に勝るとも劣らぬ美男子でございます。 十六歳の頃には、忠臣蔵の力弥の役で大評判をとりました。 やがて、菊五郎丑之助父子は人に招かれまして。 江戸に進出することになりましたが。 父子の上方なまりが、江戸っ子にはどうも鼻につく。 父は芸の力で補えましょうが、丑之助はまだ若い。 そこで、市村熊次郎という踊りの師匠のもとへ。 丑之助は

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    onboumaru 2017/02/26
    講談「因果小町」より
  • 崖の上の狐とお歯黒婆 | 砂村隠亡丸の余苦在話-よくあるはなし-

    こんな話がございます。 奥州は八戸のとある在に。 宗介ト申す若い衆がひとり。 呑気に暮らしておりましたが。 ある冬の日のことでございます。 宗介は山一つ越えた向こうの町へ。 物を買い出しに出掛けることにいたしまして。 朝は鶏の鳴く前から起き出しますト。 東の空が白み始める頃には、もう家を出ておりました。 小鳥の囀り、まばゆい木漏れ日。 白い雪がきらきら光るその中を。 宗介はてくてく歩いていく。 お天道さまが頭上に登った頃には。 宗介も峠のてっぺん、崖の上までやってきた。 ふと気づいて頭を上げますト。 何やら行く手の方向から。 ガサガサ、ガサガサと音がする。 見るト、一匹の狐が前足二で。 白い地面を懸命に掘り出している。 鼠の死骸でも嗅ぎつけたものでございましょうか。 あまりに夢中で、こちらの気配に気づいておりません。 宗介は狐に色々と借りがある。 夜中に何度も戸を叩かれて起こされたり。

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    onboumaru 2017/02/23
    青森の民話より
  • 剣樹刀山 炎熱地獄 | 砂村隠亡丸の余苦在話-よくあるはなし-

    こんな話がございます。 よく、悪事を働いた者を指差して、 「今に地獄に落ちるぞ」 ナドと脅す人がおりますが。 地獄に落ちるのも、実はそう単純ではございません。 少なく見積もっても八大地獄ト申しまして。 多く見積もれば百三十六地獄ナドとも申します。 これでは落ちる先を前もって決めておかねば迷ってしまう。 かト思えば、「生き地獄」ナドとも申します通り。 生きながらにして阿鼻叫喚の苦しみを味わう者もございます。 濃州池田は中の郷ト申す在に。 文秀ト名乗る禅僧がおりました。 若い頃には諸国を旅して廻りまして。 数多の師僧のもとで修行を積んだトか申しますが。 今では土地に根を張って棲みついている。 人を使って新田作りに精を出し。 金貸し、利殖にも色気を出す。 まったく世俗の垢にまみれきって。 この世を渡っておりましたが。 この生臭坊主がある時のこと。 ついに女色に手を染めました。 相手は庄屋の娘でご

    剣樹刀山 炎熱地獄 | 砂村隠亡丸の余苦在話-よくあるはなし-
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    onboumaru 2017/02/22
    片仮名本「因果物語」より
  • 魔物の棲む家 | 砂村隠亡丸の余苦在話-よくあるはなし-

    こんな話がございます。 唐土(もろこし)の話でございます。 かの国の晋王朝の時代のこと。 呉興ト申す地に百姓がつつがなく暮らしておりました。 この者には息子が二人ございまして。 どちらも周囲が羨むほどの孝行息子でございましたが。 ある時、二人の息子はこぞって畑を耕しておりました。 「おい、小二」 ト、兄が弟に切り出した。 「何です」 「お前、夕べのこと父さんに謝ったのか」 「夕べのこととは、一体何です」 弟はキョトンとして兄を見る。 兄はその態度に思わず、ムッと腹を立てまして。 「おい、白を切るとただじゃおかないぞ」 ト、弟をギッと睨みつけた。 「何のことです。さっぱりわけが分かりませんが――」 弟は困惑して、兄を見た。 「それなら、俺から言ってやろう。夕べ、父さんが俺の部屋に来た」 「それで」 「それで、だと。ますます忌々しい奴め。父さんが俺に言うじゃないか。小二が近頃、夜遊びがひどくて

    魔物の棲む家 | 砂村隠亡丸の余苦在話-よくあるはなし-
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    onboumaru 2017/02/16
    「捜神記」より
  • 三尺の翁が顔を撫でる | 砂村隠亡丸の余苦在話-よくあるはなし-

    こんな話がございます。 平安の昔の話でございます。 ただいま、徳川様の二条城が鎮座する地には。 もと、冷泉院(れいぜいいん)ト申す後院がございました。 後院ト申すは、上皇の御所でございます。 つまり、天皇の地位を退いた後の、終の棲家でございますナ。 さて、この冷泉院でございますが。 もともとは名を冷然院ト申しました。 ところが、度重なる火災のために。 何度も消失いたしましたので。 「然」が「燃」に通じるトして。 「泉」の字に改めたのでございます。 この冷泉院には、文字通りト申しましょうか。 泉ならぬ池がございました。 延喜年間に京の町の井戸が枯れました際には。 院を開け放ち、この池の水を誰にでも自由に汲ませたという。 陽成上皇がお隠れになった後。 この冷泉院の寝殿は、一条へ移されまして。 跡地はすべて町家となる。 池の周りにも人が住むようになりました。 さて、ある夏の夕暮れ時でございます。

    三尺の翁が顔を撫でる | 砂村隠亡丸の余苦在話-よくあるはなし-
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    onboumaru 2017/02/15
    「今昔物語集」より
  • 班女と梅若丸 隅田川 | 砂村隠亡丸の余苦在話-よくあるはなし-

    こんな話がございます。 両国の地名にも表れております通り。 古来、隅田川は武蔵下総の国境いを成してまいりました。 この川を越えれば、その先はもう奥地でございますので。 都人から見れば、相当の辺境であったろうことは間違いない。 昔、在原業平ト申す都の風流人がございまして。 何の因果か、東国の地へはるばるやって来たことがございます。 泊まりを重ねてこの隅田川へ差し掛かった時に。 見たことのない鳥が飛んでいるので、ふと興味を覚えるト。 「あれは都鳥と申す鳥でございます」 ト、渡し守が答えたのを受けて。 ――名にし負はば いざ言問はむ 都鳥 我が思ふ人は 有りや無しやと (都を名乗るのならあの鳥に尋ねてみよう。私の想い人は無事に暮らしているのかと) 左様な歌をつい詠んだのも、都人には東国行が。 それだけ侘しさを催すものであったからでございましょう。 さて、とある春の閑日でございます。 風がのどかに

    班女と梅若丸 隅田川 | 砂村隠亡丸の余苦在話-よくあるはなし-
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    onboumaru 2017/02/15
    謡曲「隅田川」より
  • 言うなの地蔵 | 砂村隠亡丸の余苦在話-よくあるはなし-

    こんな話がございます。 とかく世間で疎んじられますのは。 口の軽い男に、尻の軽い女だナドと申しますが。 人様の事ならいざ知らず。 己のことなら喋ってもよかろうト。 そうお考えになるのも分からぬではないが。 やはり、あながち得策トハ申せません。 ここに三太ト申すヤクザ者がございまして。 腕っ節の強い大男でございましたが。 この者はほんの若い時分から。 非常な見栄っ張りでございまして。 都で一旗上げるのだト。 大見得切って村を出ていきましたが。 都の方ではそんな若者ナド。 佃煮にしてなお余るほどにおりますから。 やがて野心も行き詰まる。 どころか、暮らしも立ち行かなくなりまして。 無い袖は振れず。 背に腹もまた代えられません。 三太は一旦故郷へ帰りまして。 身を立て直して都へ戻ろうト考えた。 ところが、国へまだ行き着きもしないうちに。 三太はとうとう一文無しになってしまいまして。 もう三日もも

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    onboumaru 2017/02/13
    福井の民話より
  • ひとり女房 一殺多生 | 砂村隠亡丸の余苦在話-よくあるはなし-

    こんな話がございます。 これから幾回かに分けまして。 「妲己のお百(だっきのおひゃく)」の悪行譚をお話しいたしますが。 今回、お百はまだ出... ところが他方では、まるで合点のゆかぬおかしな迷信もあったもので。 その最たるものが、これからお話する「ひとり女房」だト申せましょう。 明応年間ト申しますから。 今の世に知られる戦国の猛将たちが。 まだほんの赤ん坊だった頃の話でございます。 猿楽(能)の鼓打ちなる善珍ト。 同じく笛吹きの彦四郎の両人が。 駿河へ下らんと、伊勢の大湊で便船を待っておりました。 天気は晴朗にして、波は穏やかでございます。 やがて相客たちも乗り込んでまいりまして。 船はいよいよ出航する。 善珍は自家の中間(ちゅうげん)――つまり家来を連れておりましたが。 それは、中間のが駿河の人でございまして。 病の母を見舞うため、夫婦して主人の旅に同行したものでございます。 するト、

    ひとり女房 一殺多生 | 砂村隠亡丸の余苦在話-よくあるはなし-
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    onboumaru 2017/02/12
    「奇異雑談集」より
  • 蘭陵王の婿 | 砂村隠亡丸の余苦在話-よくあるはなし-

    こんな話がございます。 平安の昔の話でございます。 北斉の蘭陵武王は、武勇と悲劇の名将でございます。 数々の武功を立てながら、かえって疎まれてしまいまして。 最期は時の皇帝により自害に追い込まれたという。 我が朝で喩えるなら、さしずめ日武尊命といったところでございましょう。 この蘭陵王でございますが。 実は文字通り別の顔を持っている。 ト、申しますのは。 世に比類なき美声と美貌の持ち主であったため。 配下の兵士たちがついうっとりとしてしまう。 また、敵からは軟弱者ト思われて見くびられる。 そこで考えたのが、仮面を付けて出陣することでございました。 その仮面というのがまた凄まじい。 野獣とも鬼神ともつかぬ形相で敵を威圧する。 蘭陵王がこの面を被って敵の軍勢をかいくぐり。 見事帰城した時には、味方の兵すら恐れ慄いたト申します。 さて、お話は朝の平安京に舞い戻りまして。 都の一隅に、ある若い

    蘭陵王の婿 | 砂村隠亡丸の余苦在話-よくあるはなし-
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    onboumaru 2017/02/06
    「今昔物語集」より
  • 土偶の博徒 | 砂村隠亡丸の余苦在話-よくあるはなし-

    こんな話がございます。 唐土(もろこし)の話でございます。 肇慶(ちょうけい)は古代、百越の住まった地でございまして。 秦の始皇帝が、彼ら異俗の民を征服いたしまして以来。 かの地は漢人の管轄するところとなって、今日に至っておりますが。 土地には土地の神がおり、土地の霊が住まっておりますので。 いくら生きた人間の側が実権を掌握したつもりでおりましても。 我々の見えないところで、真の支配は脈々と続いているものでございます。 時代は下りまして、宋王朝の頃のこと。 ある番卒が夜中に城中の見回りをしておりましたが。 林の一隅にある亭(あずまや)の方角から。 何やら火の光が漏れているのが見えました。 「どこぞの乞どもが宴会でも開いていやがるか」 毎晩平穏無事な夜回りに。 番卒はちょうど退屈しておりましたので。 暇つぶしにはもってこいとばかりに。 灯りと話し声の方へと、ひとり歩いていきました。 ト、そ

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    onboumaru 2017/02/05
    宋代の志怪小説「夷堅志」より
  • 傾城阿波の鳴門 巡礼歌 | 砂村隠亡丸の余苦在話-よくあるはなし-

    こんな話がございます。 阿波のご領主は玉木様でございますが。 昔、衛門之助様なる若殿が、色に堕ちたことがございました。 高尾ト申す傾城に、文字通り国を傾けられたのでございます。 その隙を突いてお家転覆を企てたのが。 小野田郡兵衛ト申す奸臣で。 騒ぎの中、今度は家宝、国次の刀が盗まれる。 国難に当たって、家老桜井主膳が召し出しましたのが。 かつて放逐された元家臣、阿波の十郎兵衛ト申す男でございます。 桜井主膳の密命を受けまして。 十郎兵衛とそのお弓の二名は。 まだ幼い娘のおつるを、十郎兵衛の母に預け。 大坂へ宝刀探しに向かいました。 さて、それから幾年月が流れまして。 大坂の町には盗賊どもが跋扈している。 世に白浪、夜稼ぎと呼ばれる悪人たちの。 一味のうちに、銀十郎ト申す男がある。 浪花の町外れ、玉造にあるその隠れ家に。 女房がひとり、針仕事をしながら帰りを待っておりますト。 「もし、この

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    onboumaru 2017/01/30
    文楽「傾城阿波の鳴門」八段目より
  • こんな晩 | 砂村隠亡丸の余苦在話-よくあるはなし-

    こんな話がございます。 よく三歳までは神のうちナドと申しまして。 幼な児はいつ死んでもおかしくないからト。 こう解釈したりいたしますが。 当のところはそればかりが理由ではございません。 まだ前の世で己が何者だったのか。 忘れきっていないからトも申します。 越後国の山あいを流れるとある谷川に。 嘉吉ト申す渡し船の船頭がございました。 この者は貧しいながらも実直でございます。 夜遅くになっても、まだ川に竿を差している。 ――オラがやァー若いときィ 弥彦詣りをしたればなァー ナジョが見つけて寄りなれと言うたども かかあがいたれば返事がならぬ ハァ、ヨシタヤ、ヨシタヤ―― ナドと独り身の寂しさを唄で紛らわせながら。 月明かりだけを頼りにいたしまして。 たまに来る客のために、こちらの岸からあちらの岸へ。 スイーッスイーッと船を渡します。 「こちらは渡し場でございますな」 ト、不意に背後から問いかけ

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    onboumaru 2017/01/29
    全国に伝わる民話より
  • 廃寺の五妖怪 | 砂村隠亡丸の余苦在話-よくあるはなし-

    こんな話がございます。 昔、智行兼備の僧がおりまして。 諸国をさすらっておりましたが。 ある国にやってまいりますト。 妙な噂が耳に入った。 かつては荘厳だった名のある寺が。 今では住持の僧が住み着かなくなってしまい。 庭には草がぼうぼう生い茂り。 床には蜘蛛が這い回っているという。 仏道者として、これは聞き捨てならじト。 土地の在家を訪れまして。 詳しく様子を尋ねてみますト。 「そのことでございます」 ト、檀家が僧の方へ身を乗り出す。 「これまでに御坊様が何人かおいでにはなりました。いずれの方も初めこそ、案ずることはない、任せられよ、と頼もしいことをおっしゃるのです。ところが――」 そこでひとつ言葉を呑んだ。 「ところが――」 「はい。ところが、夜になっていざ寺に入られますと、明くる朝にはきっと姿を消しているのでございます」 「ほう」 ト、僧も頷いた。 「我々といたしましても、悲しいやら申

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    onboumaru 2017/01/26
    「宿直草」より
  • 阿弥陀の聖 | 砂村隠亡丸の余苦在話-よくあるはなし-

    こんな話がございます。 平安の昔の話でございます。 さる国の山中をひとり行く僧形の者がございました。 鹿の角を付けた杖を突き、鉦を叩いて諸国を廻る。 方々で阿弥陀如来の願を説いて歩きます。 世にいう念仏聖(ひじり)でございますナ。 さて、この壮年の聖の少し先を、旅の荷物を背負った男がひとり。 少し歩いては振り返り、少し歩いてはこちらを振り返りしております。 「さて、あの男はどうしてこちらをちらほら窺っているのであろうか」 ト、聖も奇妙に思し召さるる。 人気(ひとけ)もない森の中の一道でございます。 後ろをしきりに気にしているということは。 とりもなおさず、聖の存在を気にしているのに違いない。 「あの者も阿弥陀仏の救いを求めているのであろう」 聖はそう合点いたしまして。 そのうち追いつくであろう。 その時は求めに応じてやろう。 ト、考えた。 やがて道は坂に差し掛かる。 その坂を登りつめた

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    onboumaru 2017/01/25
    「今昔物語集」より
  • 水を飲んだ女 | 砂村隠亡丸の余苦在話-よくあるはなし-

    こんな話がございます。 唐の国の話でございます。 孟母三遷トいう言葉がございますが。 これは孟子の母が息子の正しい修養のために。 三度までも引っ越しをしたというお話でございまして。 一度目は、墓地の近くに住まいましたが。 息子が葬式の真似をして遊ぶようになった。 二度目に、市場の近くに住まったところ。 商売人の真似をして遊ぶようになった。 三度目に、学問所の近くに住まいいたしますト。 礼儀作法の真似事をするようになったという。 ここに至って、孟子の母はようやく納得したそうでございます。 これに鑑みますに古来、母親ト申すものは。 我が子の――殊に息子のト申して良いでしょうナ―― 子の人生を何かと管掌したがるもののようでございます。 ところがあまり口出しが過ぎますト。 後に災禍をもたらさないとも限りません。 唐の貞元年間のこと。 望苑駅の西に王申ト申す者が暮らしておりました。 この者は非常に義

    水を飲んだ女 | 砂村隠亡丸の余苦在話-よくあるはなし-
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    onboumaru 2017/01/23
    「酉陽雑俎」より
  • 死神 | 砂村隠亡丸の余苦在話-よくあるはなし-

    こんな話がございます。 ある年の暮れのことでございます。 貧しい男がひとりございまして。 金の算段もつかぬまま家に帰ってまいりますト。 女房が眉を吊り上げて待っている。 「空手で帰ってきたのかい。全くだらしがないね。どうやって年を越すんだよ。もう一度無心に行っておいでよ。借りられるまで帰ってくるんじゃないよ。このうすらとんかちッ」 ト、けんもほろろに追い出されてしまった。 「畜生、なんて女だ。ああ、嫌だな。俺ァ生きてるのがつくづく嫌になっちまった。――死のうかしら」 寒空の下、大川端を当てもなく歩いているト。 思わずそんな愚痴も出る。 「しかし、死んだことがないからな。首吊りがいいかな。それとも身投げがいいかな。どうやって死のう」 ぶつぶつ独り言を言っているところへ――。 「教えてやろうか」 不意に声を掛けられ、男はゾッとして振り返る。 物陰から何者かがにゅっとこちらをみつめている。 毛は

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    onboumaru 2017/01/20
    三遊亭圓朝作「死神」より