昔話に関するonboumaruのブックマーク (29)

  • 焼き場の妖異が我をたばかる | 砂村隠亡丸の余苦在話-よくあるはなし-

    こんな話がございます。 遠きいにしえより、我が朝におきましては。 辻占(つじうら)だの、橋占(はしうら)だの。 そういったものをよく行います。 夜明け前や黄昏時ナド、薄暗く寂しい頃合いに。 四ツ辻や橋のたもとにひとり立ちまして。 行き交う人々の言葉にじっと耳を傾ける。 そうして事の吉兆を占うものでございます。 かの平清盛の娘が身籠ったときも。 母の時子が一条戻橋へ出かけまして。 橋占を行ったトもうします。 そのとき通りかかった童たちの言葉の中に。 「国王」トあったのを耳にいたしますト。 生まれてくる子は天子様になるに違いないト。 大いに安堵いたしたそうでございますが。 これが後の安徳帝なのだから、占いも侮れませんナ。 ところで、どうしてそんなところで占うのかト申しますト。 人通りの繁しい場所は、霊力も強かろうト考えたからで。 人ならぬ霊異が人の口を借りて。 神の意を語り示すトいうのでござい

    焼き場の妖異が我をたばかる | 砂村隠亡丸の余苦在話-よくあるはなし-
  • 奥州安達原 | 砂村隠亡丸の余苦在話-よくあるはなし-

    こんな話がございます。 平安の昔の話でございます。 京の都のさる公卿のお屋敷に。 名を岩手の局ト申す女がおりましたが。 この者は姫君の乳母でございまして。 我が仕える姫君を、それはそれは大事に育てておりました。 ところが、この姫君ト申しますのが。 生まれつき病に冒されておりまして。 五歳になっても一向にものを話しません。 岩手は姫君が不憫で不憫で仕方がない。 そこである時、易者にこれを打ち明けますト。 いつの世も易者ト申しますものは。 無責任な輩ばかりでございますので。 「まだ女の腹の中におるままの、赤子の生き肝をわせるより他にない」 ナドと吹き込んだ。 岩手は姫君が可愛くてなりませんので。 どうしても赤子の生き肝を手に入れたい。 その思いにすっかり取り憑かれてしまいまして。 生まれたばかりの娘を人に預け。 首には赤いお守り袋を掛けてやる。 「母岩手」ト書かれた形見の品。 「かかさまがお

    奥州安達原 | 砂村隠亡丸の余苦在話-よくあるはなし-
    onboumaru
    onboumaru 2019/06/14
    謡曲「安達原(黒塚)」より
  • 熱海初島 お初の松の由来 | 砂村隠亡丸の余苦在話-よくあるはなし-

    こんな話がございます。 伊豆国熱海を、南東の海上へ去ること三里。 名を初島ト申す小島が、沖に浮かんでおりますが。 この島の開闢は、さる姫君の漂着から始まったトカ申します。 その昔、日向国に初木姫ト申す美しい姫がおり。 何の因果かこの島へ流されてまいりまして。 毎晩、無人の島から寂しく対岸を眺めましては。 焚き火を焚いて人の気配を求めておりました。 やがてこれに気づきましたのが。 伊豆山の伊豆山彦ト申す一柱の神。 さっそく姫は萩で筏を組みますト。 いとしい男神に相まみゆるべく。 どんぶらこ、どんぶらこ。 海を渡っていったトいう。 その育てた子らの末裔が。 今の伊豆山権現であるト申します。 さて、この初島の船着き場に。 遠く伊豆山を望むように立つ大きな松がある。 名を「お初の松」ト申しますが。 その由来にはこんな秘話がございます。 初島にまだ人家が六戸しかなかったころ。 そのうちの一軒に娘がひ

    熱海初島 お初の松の由来 | 砂村隠亡丸の余苦在話-よくあるはなし-
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    onboumaru 2019/05/24
    伊豆の伝説より
  • 苺の六郎、雪の十二郎 | 砂村隠亡丸の余苦在話-よくあるはなし-

    こんな話がございます。 甲斐国は身延のあたりの山あいに。 母ひとり娘ふたりの女所帯がございました。 父は五年前に亡くなりまして。 母は元々その後添えでございました。 妹娘のお君は今の母の子でございますが。 姉娘のお雪はト申しますト。 これは死んだ前の母が産んだ子でございまして。 世の中に継母と継子の仲ほど面倒なものはございません。 誰しも腹を痛めて産んだ子が可愛いものでございましょう。 前の女が産んだ子など、まるで仇も同然で。 しかも、その父親はもうこの世におりませんので。 「お雪。お前はどうしてそんなにのろいんだよッ。一体、誰に似たんだろうね」 ト、おっかあは何かにつけて姉のお雪を責めますが。 実のところ、真にのろいのは妹のお君のほうでございます。 「おっかあ」 「何だい。お君」 「あたい、苺がべたい」 時は十二月。 外は一面の雪景色。 苺は六月に実をつける。 夏の水菓子でございます。

    苺の六郎、雪の十二郎 | 砂村隠亡丸の余苦在話-よくあるはなし-
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    onboumaru 2018/04/13
    山梨の民話より
  • 蛇女房 | 砂村隠亡丸の余苦在話-よくあるはなし-

    こんな話がございます。 木曽の山中、人里離れた静かな森に。 木こりが一人住まっておりまして。 枝木を伐って暮らしを立てているトいう。 貧しい山男でございましたが。 与市ト申すこの者は、三十路を過ぎてなお独り身で。 ト申しますのも、早くに二親に死なれてしまい。 父親の商いを、見よう見まねでやってまいりましたので。 もう十幾年も、今日うのに精一杯で。 嫁取りはおろか、人付き合いもろくにしたことがない。 今日も今日とて、形見のナタを腰にぶら下げまして。 通い慣れた獣道を、奥へ奥へト歩み進んで行きますト。 突然、目の前にぱっと広がりますのは。 深い谷ト遠くの山々まで一望する。 崖の上からの景色でございます。 近頃、与市は毎日ここまでやってまいり。 日暮れまでずっと木を伐っておりました。 ここでナタをふるいますト。 カーンカーントいう甲高い音が。 谷底に大きく響きます。 するト、寂しく暮らす与市に

    蛇女房 | 砂村隠亡丸の余苦在話-よくあるはなし-
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    onboumaru 2017/12/25
    岐阜の民話より
  • 八王子千人同心 蛇姫様 | 砂村隠亡丸の余苦在話-よくあるはなし-

    こんな話がございます。 武蔵国は多摩郡八王子の地に。 千人同心ト申す集団がございますが。 これは、滅亡した武田家の遺臣たちを家康公が惜しみまして。 甲州口――すなわち甲州武州の境を守らせたのが始まりでございます。 その後は、天下泰平の御世が続いておりますから。 近頃では日光勤番ト申しまして。 東照宮をお守りする役目に就いている。 ひとえに、神君の旧恩に報いんとするものでございましょう。 この者たちの身分は郷士でございます。 侍でありながら、土にまみれて汗を流すという。 半士半農、いわば地侍でございますナ。 十組百人、合わせて千人となることから。 この名がついたト申します。 これらを束ねますのが、その名も千人頭でございまして。 身分は五百石取りの旗格でございます。 甲州街道と陣馬街道の追分に広い屋敷を構えておりますが。 さて、かつてこの屋敷の主人でありましたのが。 萩原頼母(はぎわら たの

    八王子千人同心 蛇姫様 | 砂村隠亡丸の余苦在話-よくあるはなし-
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    onboumaru 2017/03/31
    八王子の伝説より
  • 崖の上の狐とお歯黒婆 | 砂村隠亡丸の余苦在話-よくあるはなし-

    こんな話がございます。 奥州は八戸のとある在に。 宗介ト申す若い衆がひとり。 呑気に暮らしておりましたが。 ある冬の日のことでございます。 宗介は山一つ越えた向こうの町へ。 物を買い出しに出掛けることにいたしまして。 朝は鶏の鳴く前から起き出しますト。 東の空が白み始める頃には、もう家を出ておりました。 小鳥の囀り、まばゆい木漏れ日。 白い雪がきらきら光るその中を。 宗介はてくてく歩いていく。 お天道さまが頭上に登った頃には。 宗介も峠のてっぺん、崖の上までやってきた。 ふと気づいて頭を上げますト。 何やら行く手の方向から。 ガサガサ、ガサガサと音がする。 見るト、一匹の狐が前足二で。 白い地面を懸命に掘り出している。 鼠の死骸でも嗅ぎつけたものでございましょうか。 あまりに夢中で、こちらの気配に気づいておりません。 宗介は狐に色々と借りがある。 夜中に何度も戸を叩かれて起こされたり。

    崖の上の狐とお歯黒婆 | 砂村隠亡丸の余苦在話-よくあるはなし-
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    onboumaru 2017/02/23
    青森の民話より
  • 言うなの地蔵 | 砂村隠亡丸の余苦在話-よくあるはなし-

    こんな話がございます。 とかく世間で疎んじられますのは。 口の軽い男に、尻の軽い女だナドと申しますが。 人様の事ならいざ知らず。 己のことなら喋ってもよかろうト。 そうお考えになるのも分からぬではないが。 やはり、あながち得策トハ申せません。 ここに三太ト申すヤクザ者がございまして。 腕っ節の強い大男でございましたが。 この者はほんの若い時分から。 非常な見栄っ張りでございまして。 都で一旗上げるのだト。 大見得切って村を出ていきましたが。 都の方ではそんな若者ナド。 佃煮にしてなお余るほどにおりますから。 やがて野心も行き詰まる。 どころか、暮らしも立ち行かなくなりまして。 無い袖は振れず。 背に腹もまた代えられません。 三太は一旦故郷へ帰りまして。 身を立て直して都へ戻ろうト考えた。 ところが、国へまだ行き着きもしないうちに。 三太はとうとう一文無しになってしまいまして。 もう三日もも

    言うなの地蔵 | 砂村隠亡丸の余苦在話-よくあるはなし-
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    onboumaru 2017/02/13
    福井の民話より
  • こんな晩 | 砂村隠亡丸の余苦在話-よくあるはなし-

    こんな話がございます。 よく三歳までは神のうちナドと申しまして。 幼な児はいつ死んでもおかしくないからト。 こう解釈したりいたしますが。 当のところはそればかりが理由ではございません。 まだ前の世で己が何者だったのか。 忘れきっていないからトも申します。 越後国の山あいを流れるとある谷川に。 嘉吉ト申す渡し船の船頭がございました。 この者は貧しいながらも実直でございます。 夜遅くになっても、まだ川に竿を差している。 ――オラがやァー若いときィ 弥彦詣りをしたればなァー ナジョが見つけて寄りなれと言うたども かかあがいたれば返事がならぬ ハァ、ヨシタヤ、ヨシタヤ―― ナドと独り身の寂しさを唄で紛らわせながら。 月明かりだけを頼りにいたしまして。 たまに来る客のために、こちらの岸からあちらの岸へ。 スイーッスイーッと船を渡します。 「こちらは渡し場でございますな」 ト、不意に背後から問いかけ

    こんな晩 | 砂村隠亡丸の余苦在話-よくあるはなし-
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    onboumaru 2017/01/29
    全国に伝わる民話より
  • 江ノ島 稚児ヶ淵の由来 | 砂村隠亡丸の余苦在話-よくあるはなし-

    こんな話がございます。 源頼朝公の腹心に、文覚(もんがく)という僧侶がございました。 俗名を遠藤盛遠(もりとお)と申しまして。 摂津源氏の... さて、この江ノ島の南端に。 稚児ヶ淵と呼ばれる場所がございますが。 この淵がどうして稚児の名で呼ばれるのか。 これからその由来をお話したいと存じます。 臨済宗の大山として知られる鎌倉の建長寺に。 自休ト申す僧がございました。 もとは奥州、信夫(しのぶ)の里の人でございます。 自休は高徳の僧として、すでに高い評判を得ておりましたが。 あくまでも謙虚な人物でございまして。 いにしえの高僧たちが修行したという江ノ島へ。 百日詣にまいったのでございます。 自休が弁財天を参詣して、島を離れようとしていたその時。 断崖の突端に、ひとりの翁の脇に立つ小さき人影が見えました。 見るト、どこかの寺の稚児のようでございます。 小さき人は、まばゆい夕陽から目をそらす

    江ノ島 稚児ヶ淵の由来 | 砂村隠亡丸の余苦在話-よくあるはなし-
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    onboumaru 2017/01/18
    神奈川の伝説より
  • 神隠し 嬰児と黒髪 | 砂村隠亡丸の余苦在話-よくあるはなし-

    こんな話がございます。 陸奥国は遠野ト申す地に。 男盛りの猟師が一人おりまして。 名前を嘉兵衛ト申しましたが。 この嘉兵衛が山へ猟に出た時のこと。 一日中、山を歩き回っても獲物は見つからず。 銃の掛け紐が肩に重くめり込みます。 歩き疲れて足はすでに棒のよう。 がっくりうなだれ、山を降り始めたのが薄暮れ時で。 不意に目の前の笹原を撫でるようにして。 風がさらさらト音を立てて、通り過ぎていきました。 嘉兵衛はその風に誘われでもしたように。 何の気なく顔を上げて見ましたが。 その風を向かい撃つかのようにして。 こちらへ向かってくる髪の長い女がひとり。 背中に嬰児(みどりご)をおぶっている。 色の白く、美しい女でございます。 子供を結いつけた襷(たすき)は、藤の蔓。 着物は常の縞模様でございますが。 裾のあたりが尋常でないほどに破れている。 それを、何を思ったのか、木の葉を集めて縫い付けています。

    神隠し 嬰児と黒髪 | 砂村隠亡丸の余苦在話-よくあるはなし-
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    onboumaru 2016/12/26
    柳田國男「遠野物語」中の数篇より翻案
  • 歌い骸骨 | 砂村隠亡丸の余苦在話-よくあるはなし-

    こんな話がございます。 奥州は遠野郷のある村に。 七兵衛と十兵衛ト申す二人の若者がおりまして。 三年を期日と定めて、江戸へ稼ぎに出かけました。 七兵衛は道楽者の怠け者でございますが。 十兵衛は真面目一徹の働き者でございます。 村にいるときも、七兵衛は遊んでばかりで働こうとしない。 一方の十兵衛は、病気がちの老母を一人で養っておりましたので。 朝から晩まで働き詰めの日々を送っておりました。 それでも弱音ひとつ吐こうとしない。 何もかもが正反対の二人でございます。 また、特段仲が良かったわけでもない。 では、どうしてこんな不釣り合いな二人の者が。 一緒に旅に出ることになったかト申しますト。 ひとえに七兵衛の悪巧みからで。 ある夕暮れ時。 七兵衛は、働き疲れて家路に就く十兵衛に。 不意に近づいてきて、声を掛けた。 実は昼間からずっと待ち伏せていた。 「おお、十兵衛。精が出るな」 「おや、七兵衛か

    歌い骸骨 | 砂村隠亡丸の余苦在話-よくあるはなし-
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    onboumaru 2016/12/04
    岩手ほかの民話より
  • 手っ切りあねさま | 砂村隠亡丸の余苦在話-よくあるはなし-

    こんな話がございます。 陸奥国は三戸の御古城近くに。 大層な分限者がおりまして。 サトと申す美しい娘がおりましたが。 この娘の実の母はもうこの世におりません。 後に来た継母はト申しますト。 それはたちの悪い女でして。 いつもサトをいじめておりました。 ある時、父は殿様の御用に従って江戸へ向かう。 以前から継子が憎くてたまらない後でございましたが。 この機を逃してはなるまいト。 悪事を一つ企てました。 近所をうろついていた野良を一匹捕らえますト。 棒で滅多打ちに殴りつけまして。 かわいそうに、殺してしまった。 後はすかさずの遺骸を庭に埋める。 そうして、ひとりで澄ましておりましたが。 やがて、出立から幾月が経ちまして。 父親がようやく江戸から戻ってくる。 するト、後がいかにも嘆かわしそうな表情で。 夫に近づき、告白する。 「あなた、実はサトが――」 「どうした、そんな青い顔をして

    手っ切りあねさま | 砂村隠亡丸の余苦在話-よくあるはなし-
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    onboumaru 2016/11/14
    青森三戸の民話より。
  • 死に埋め婆の声がする | 砂村隠亡丸の余苦在話-よくあるはなし-

    こんな話がございます。 俗に「偕老同穴の契り」ナドと申しまして。 夫婦の仲が睦まじく、固い信義で結ばれていることを指しますが。 「偕(とも)に老い、死しては同じ穴(墓)に入らん」ト。 マ、字句の意味としては、そんなところでございましょうナ。 時々、口説き文句に使う輩もおりますが。 これは気をつけなければなりません。 死して同じ穴に入るためには。 先に死んだ方が、生きている方を待つことになる。 穿った見方と言えばそれまででございますが。 あまり気持ちのよいものではございません。 さてここに、一軒の何の変哲もない百姓家がございまして。 老人とその古女房が住んでおりました。 このふたりがまさに「偕老同穴の契り」を地でゆくような夫婦で。 四十年間、喧嘩一つしたことのない、仲の良い夫婦でございます。 ところが、時というものは残酷なもので。 婆さんのほうが、やがて病の床につく。 爺さんのけなげな看病も

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    onboumaru 2016/11/03
    長崎の民話より
  • 猫又屋敷 | 砂村隠亡丸の余苦在話-よくあるはなし-

    こんな話がございます。 昔、周防国に大きな店構えの商家がございまして。 長年、一匹のが住み着いておりましたが。 この家のお内儀(かみ)が、質(たち)の悪い女でございまして。 いつも、このいじめておりました。 嫌いなのかといえば、そうではない。 勝手に住み着いたを、もう五年も飼っている。 朝昼二度の餌もしっかり与えます。 それでは大事にしているのかといえば、そうでもない。 見かけるたびに外へ放り投げたり、蹴飛ばしたり。 酷い時には、焼け火箸で頭を叩いたり。 生かさず殺さず、何かのはけ口にしているとしか思えない。 の方でこの家を出ていかないのにはわけがありまして。 何も、ネズミがたくさんいるからというのではございません。 この家の女中が、を哀れに思っておりまして。 いつも優しく接してくれるからでございました。 そのが、ある日ふっと姿を消しました。 勝手口の脇には、いつもはすぐ空

    猫又屋敷 | 砂村隠亡丸の余苦在話-よくあるはなし-
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    onboumaru 2016/10/25
    各地に伝わる化け猫伝説より
  • 箱根関所 お玉ヶ池 | 砂村隠亡丸の余苦在話-よくあるはなし-

    こんな話がございます。 よく、「入り鉄砲に出女」ト申しまして。 女が関所を通過するには、非常な困難が伴いますが。 もっとも厳しいのはどこかと申しますト。 それはやはり、東海道は箱根の関所でございましょう。 その関所の裏山に。 お玉ヶ池ト申す池がございまして。 元は薺(なずな)ヶ池と呼ばれていたそうでございますが。 どうしてお玉ヶ池と呼ばれるようになったのか。 その由来をこれからお話しいたします。 元来、関所と申しますものは。 手形さえあれば誰でも通ることができますが。 こと、女に関しますト。 それがそうもいかないのが難しいところで。 男が関所を通ります場合は、通行手形が必要となりますが。 これは町役人か菩提寺に頼めば、その場でサラサラと書いて渡してくれる。 ところが、女には女手形トいうものがございまして。 これを誰が書いてくれるかと申しますト。 幕府のお留守居役でございます。 ――急に敷居

    箱根関所 お玉ヶ池 | 砂村隠亡丸の余苦在話-よくあるはなし-
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    onboumaru 2016/10/05
    神奈川の伝説より
  • 河童駒引 五郎兵衛と河童徳利 | 砂村隠亡丸の余苦在話-よくあるはなし-

    こんな話がございます。 相州のとある川の畔に、五郎兵衛ト申す馬方が住んでおりました。 五郎兵衛は真面目で几帳面な男でございまして。 馬もその気質をよく知ってか、聞き分け良く働きます。 五郎兵衛は馬を非常に大事にする。 馬も五郎兵衛に心から懐いている。 この馬は、人間なら十六の娘といったところの牝馬で。 名前は赤(あか)ト申します。 五郎兵衛と赤は、まるで夫婦のように。 互いに息の合った、良い相棒でございました。 ある日のこと。 五郎兵衛は川の浅瀬で、赤を洗ってやっておりました。 「今日は天気も良かったし、おまえもよく働いたから、汗びっしょりになってしまったなあ」 ナドと言いながら。 自分も汗びっしょりになって、馬を磨いております。 赤も気持ちよさそうに、五郎兵衛に身を委ねている。 ト――。 淵の水の中をスーッ、スーッと。 何者かが行ったり来たりするのが見えました。 背丈からするト、人間のよ

    河童駒引 五郎兵衛と河童徳利 | 砂村隠亡丸の余苦在話-よくあるはなし-
  • 佐渡の八百比丘尼 | 砂村隠亡丸の余苦在話-よくあるはなし-

    こんな話がございます。 ご承知の通り、佐渡はいにしえより流刑の地でございます。 古くは順徳天皇、日蓮上人、能役者の世阿弥など。 様々な人物がこの島に流されてまいりましたが。 徳川様の御代となってからは、もっぱら町方の罪人の終焉地トなっている。 終焉地トはどういうことかと申しますト。 この地に流されたが最後、生きて帰ることはまずありえません。 まずは瓢箪責めという慣例から始まりますが。 これは、己の股ぐらに頭を突っ込むような形をとらせまして。 その形のまま、縄で厳重に縛り付けられるトいうもので。 この責め苦には、どんな悪人でも悲鳴を上げて、苦しがります。 中には、この時点で息絶えてしまう者もいる。 やっとのことで解放されますト。 実はここからが番で。 三年三月の苦役を勤め上げれば、晴れてお赦しトなりますが。 まず、満期を迎えられる者がおりません。 針山のような鉱山を、裸足で歩き回らせられま

    佐渡の八百比丘尼 | 砂村隠亡丸の余苦在話-よくあるはなし-
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    onboumaru 2016/08/13
    全国に流布する八百比丘尼伝説より
  • 大歳の火 | 砂村隠亡丸の余苦在話-よくあるはなし-

    こんな話がございます。 ある山深い村に若い夫婦がおりまして。 夫の母親と三人で、同じ屋根の下に暮らしておりました。 ある冬のこと。 大歳(おおどし)、つまり大晦日の晩のことでございます。 外はしんしんと雪が降っている。 三人はこの年最後の事を終えて、囲炉裏にあたっておりました。 嫁は何だかそわそわとする。 自分でもよく分かりませんが、今日に限って心が落ち着きません。 ちらりと姑の方を見る。 いつにもまして、険しい表情で囲炉裏の火を見つめておりました。 囲炉裏の火越しに見えたその姿が。 炎に包まれたようにゆらゆらと揺れている。 嫁はふっと魅入られたような心持ちになった。 「これからは、お前が火種を守らなければならねえ」 姑が炎を見つめたまま、嫁に言いました。 嫁はどきっとして、夫の方に思わず目をやる。 夫は、安心させようと、深く頷いてくれました。 ト、二人の視線を遮るように、姑が冷たく言い

    大歳の火 | 砂村隠亡丸の余苦在話-よくあるはなし-
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    onboumaru 2016/08/05
    長野ほかの民話より
  • 山鬼妖艶 | 砂村隠亡丸の余苦在話-よくあるはなし-

    こんな話がございます。 昔、陸奥国は遠野ト申すところに、三人の兄弟がおりました。 仮に上から、太郎、次郎、三郎トいたしますが。 太郎は四十を超えておりましたが、いまだに独り身でございまして。 長男である手前、顔にこそ出しはしませんでしたが。 内心、このことをひどく気に病んでおりました。 次郎は若いうちに美しいを娶りまして。 子宝にも恵まれて、夫婦仲も非常に良い。 人も、身持ちの固い男でございます。 三郎は兄二人とは年が離れておりまして。 これはまだ三十にもなりませんで、やはり独り身でございます。 ところが、同じ独り身でも長兄の太郎とは意味が違う。 手の施しようのない放蕩者で、相当の浮き名を流している。 挙句に亡き父から勘当されて、友人の家に厄介になっているという。 さて、ある時、長兄の太郎に縁談が舞い込みまして。 太郎さえ良ければ、先方はすでに承諾しているト申します。 しかし、太郎の方

    山鬼妖艶 | 砂村隠亡丸の余苦在話-よくあるはなし-
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    onboumaru 2016/07/26
    岩手遠野の民話より