Kindle(キンドル)、そしてiPad(アイパッド)が発売になってから、電子書籍がにわかに脚光を浴びるようになった。こういった電子書籍端末やタブレット機で読む本の対極にあるのは、言うまでもなく紙の本だ。その中でも最も遠い存在が工藝製本だろう。革などで意匠を凝らした1点物の書籍のことだ。フランス語ではルリユールといい、ヨーロッパでは数百年の伝統がある。ルリユールをわが国に広めたのは栃折久美子さんである。日本工藝製本の創始者といっていい。 電子書籍が世間の耳目を引き、やがて紙の本に取って代わるだろう、と語られるようになったとき、工藝製本の作家や愛好者たちは、栃折久美子という日本ルリユールの巨人が、どのような意見を持つのか、その考えを聞いてみたいと興味をもった。愛好者の心裏には「紙の本が無くなるなんてありえない」という反発があった。巨人の同調を得て、反旗をひるがえしたかったのだ。それは、新しい