豪奢ともいえる廊下を進むごとに、複雑な思いが強くなっていく。 白大理石がふんだんに用いられた床や壁、無意味とさえ思えるほど精細に壁に刻まれたレリーフ、そして昼間だというのに明かりの灯された銀の燭台――そのすべてが無駄なものに思え、ダミアンは憂鬱さを表情に出さないようにするので精いっぱいだった。 ここはダスク共和国の首都ブラン、その中心にある総統府の建物だ。内装も外装も華美の一言に尽き、なんの飾りもないところのほうが珍しい。 ――いったい、どちらが帝政なんだか。 総統府に来るたびにそう思う。国民性の違いといえばそれまでだが、質実剛健なノルトファリア帝国のほうがはるかに共和制に向いているような気がした。 無言のままさらに進んでいくと、次は重厚すぎる扉が見えてきた。黒檀(こくたん)だろうか、色つやの素晴らしい木製の扉の表面に、手に触れるのがおそれ多いほど複雑な紋様が丁寧に細かく刻み込まれている。
![つばさ 第二部 - 第六章 正負の胎動](https://cdn-ak-scissors.b.st-hatena.com/image/square/f6acf64595bb2498862cd681287d99092795d565/height=288;version=1;width=512/https%3A%2F%2Fsbo.syosetu.com%2Fn1044cv%2Ftwitter.png)