『推し、燃ゆ』とシリアスレジャー2010年代後半から2020年代にかけて、「オタク」あるいは「推し」という言葉が流行するようになった。 2021年に芥川賞を受賞した『推し、燃ゆ』(宇佐見りん、2020年)は「推し」のアイドルを愛する女性の葛藤を描き、単行本は50万部を突破している。 同書の主人公・あかりの特徴的な点は、これまで余暇時間に趣味として楽しむものとされてきたアイドルの応援活動に、人生の実存を預けているところにある。 つまり『コンビニ人間』(コンビニで働く女性の物語。コンビニで働くことで自分を「普通」に適合させるのだと主人公は感じている)が労働で実存を埋める女性を描いた物語だとすれば、『推し、燃ゆ』は「推し」という趣味とそれにともなうSNSでのコミュニケーションのなかで実存を埋める女性を描いた物語である。 あたしには、みんなが難なくこなせる何気ない生活もままならなくて、その皺寄せに