市場個人主義を憂う 半世紀におよぶ戦後日本経済の観察者であり、よき理解者であったイギリスの労働社会学者ドーアの新著。その長いキャリアの果てに彼の目に映る今日の経済の姿は、きわめてペシミスティックなものだ。かつてケインズは、社会が豊かになれば、効率性の追求は二の次となり、労働時間は短縮され、労働の意味や生活の質へと関心が移るだろうと予言した。しかし、実際には、80年代以降、先進国ではのきなみ労働時間は増加し、業績主義が導入され、不平等は拡大し、労働強化の方向をたどってゆく。 原因は何か。それは80年代以降の競争激化である。競争の激化は二つの要因を伴っていた。ひとつは従業員中心の経営から株主中心の経営への経営マインドの変化、もうひとつはグローバル化のなかで、各国が国際的な競争力を強化するための政策を採用したこと。後者によって、雇用や生活の安定や福祉政策よりも、グローバルな金融市場へのアクセスを