私が職場で、リーダーのカサキさん(仮名)と、きわめて日常茶飯事的社会の潤滑油的、毒にも薬にもならない無難会話をしようと試みていたときの話です。 何の印象にも残らない薄くて軽くて、おかげで絶対に胸焼けしないあっさり会話を順調に積み重ねることが、社会人として当然のたしなみであろう、と私は信じております。テクニカルに無難会話の数をこなすことで、常識的で穏やかなニッポンのオトナになれるはずだし、なってやるぜ、エイエイオー。 「うー、今日はなんか、寒いっすねえ。こう冷え込むと、温泉行きたい気分になるなあ」 気温や天気の話をするのは、世間話の基本中の基本ですし、温泉に行きたがっている日本人は全体の九割程度いるはずですから、この切り出しはまさにセーフティ。会話が無難で平凡で安全にしか進まないことが約束されているようなものです。私は自分が身に着けた着実なテクニックを、内心で大絶賛しておりました。 「温泉い