海外旅行の自由化 ここで改めて、戦後日本の海外旅行史を簡単に振り返ってみたい。 日本人に限らず、外国旅行事情を考えるには、国の経済力という問題を頭に入れておかなければ旅行の歴史は語れない。 1955年のアメリカ・イギリス合作映画「旅情」(Summertime)は、アメリカの地方都市で秘書をしている38歳の独身女性が、コツコツと貯めたカネを使って、「夢のイギリス、フランス、イタリア3か国旅行」の最後の土地ベネチアでのラブロマンスを描いている。世界一豊かな国アメリカでも、ごく普通の会社員にとって、旅行資金と長期休暇という二つの大きな障害を乗り越えないと、「夢のヨーロッパ旅行」は実現できない時代だった。アメリカ人といえども、大学生くらいの若者が気軽に外国旅行ができる時代ではまだなかった。第2次世界大戦が終わって、まだ10年である。私が見たことがある映画の中で、無邪気なアメリカ人観光客が現れるのは