【ボリバル侯爵】 レオ・ペルッツ 垂野創一郎訳 1812年、スペインに侵攻したナポレオン軍に対し、占領下のラ・ビスバル市ではゲリラによる反攻計画の噂が囁かれていた。ナポレオン旗下ナッサウ連隊のフォン・ローン少尉は戦闘で負傷し、民家の納屋に身を潜めている間に、偶然、ゲリラ軍の首領サラチョ大佐と、スペインの民衆から偶像的崇拝を受ける謎の人物、ボリバル侯爵との密談を聞いてしまう。ボリバル侯爵は大佐に作戦開始の三つの合図を授けた。「第一の合図は私の館の屋根から上る黒い煙だ。この合図で街道を占拠し、橋を爆破しろ。第二の合図は聖ダニエル修道院のオルガンの音だ。この合図で市を砲撃しろ」 そして大佐の短刀を取り上げると、「これが第三の合図だ。使いの者がこの短刀を持ってきたら、突撃命令を下せ」 少尉の報告を受けた占領軍は、ボリバル侯爵と目される人物を銃殺し、「三つの合図」 を阻止したかにみえた。しか