何気なく手にとったが、ここ数年ずっと考えているテーマ(アイデンティティの複数性と社会的な政策との関係)に近似したものが読めて、とても参考になった。 個人から分人へ という著者のテーマは、僕流に解釈すると、アイデンティティの単数性からアイデンティティの複数性へ、ということだと思う。 著者の面白い点は、この分人主義をさまざまな側面から、平易で明瞭な事例を重ねて記述していることだ。あっというまに読めるが、それでもその深度は測りがたいものもある。例えば、さらっと分人主義が、サンデル的な共同体主義への批判の基礎になるとも示唆していたり(これはアイデンティティの複数性を唱えたアマルティア・センと同じ)、または社交の在り方によって人の個性が決まると述べる箇所などは刺激的だ。 「誰とどうつきあっているかで、あなたの中の分人の構成比率は変化する。その総体が、あなたの個性となる。10年前のあなたと、今のあなた