そこで開かれた諸可能性は、二度と閉じられることはない ――追悼 デヴィッド・グレーバー 酒井隆史 ニューヨーク在住の著述家・翻訳家の友人、高祖岩三郎氏から、ニューヨークにいま、おもしろいヤツがいる、と聞いたのは二〇〇〇年代の半ばをすぎたころだった。街で会ってはしょっちゅう話をしている。人類学者でありながら、オルタグローバリゼーション運動に参加し、ときにスポークスマンとなり、しかもブラック・ブロック(日本ではいまだ、おそるべき「テロリスト」としての表象しかないのではないか)として行動し、なおかつそれを理論化し、大学をクビになった、あるいは、なりそうな人物がいる(実際、二〇〇四年にイェール大学からの契約を「政治的理由」で、打ち切られている)。しかも、その書くものがとんでもなくおもしろい、と。高祖氏がさっそく翻訳してくれた。それが『アナーキスト人類学のための断章』(以文社)である。二〇〇四年公刊