80歳になるばあちゃんが、施設へ行く日がついにやってきた。 施設というと、なんか薄暗いイメージを持たれるかもしれない。「認知症対応型共同生活介護(グループホーム)」という、立派な名前がついている場所だ。 最初、様子がおかしいことに気づいたのは、母だった。 5年前のことである。 わたしは東京に住み、母と弟とばあちゃんは神戸に住んでいた。 母は大阪にある会社まで、片道一時間半ほど車を運転して帰っていた。夜7時をすぎて仕事が終わると、いつも祖母に電話をする。 「お母さん、なんか食べるもんある?」 忙しかった母は、昼ごはんを食べそこねることも多かった。お腹はペコペコだ。 すると、祖母は答える。 「夕飯作ったし、冷蔵庫にもなんなと(なんでも)あるで」 その言葉を信じ、母は一目散に家へ帰る。 すると、21時前にしてすでに床へ入っていた祖母が、沼の妖怪のようにズル…ズル…と這い出てきて、面倒くさそうに母