十五世紀末から十六世紀初頭、宗教改革前夜のドイツ社会についてはそれほど明らかになっているわけではないらしい。何せ民衆のほとんどが文字を書くことができず、日記など資料となるものががほとんど残っていないせいだ。それでも活版印刷の普及によってそれ以前の時代よりは遥かに”まし”だという。当時の社会の信仰について宗教改革研究の第一人者スクリブナーは著書「ドイツ宗教改革」で既存の四つの説を比較検討しつつこのように描写している。 『もっとも基本的な信仰は、自然界がその維持と安寧を聖なる力に依存しているというものだった。キリスト教は、神が森羅万象を維持する唯一の超自然的存在であることを強く主張していた。しかし中世の人々は、超自然的力をふるうことができる多数の他の存在が活動していると考えていた。それは悪魔、天使のような霊と悪霊の双方、そして聖なる力を所有していると考えられた数多くの「神聖な」人物たちである。