坂口安吾が、ちらかった部屋で原稿用紙を前にこちらを睨む。バーのカウンターで明るい表情の太宰治が談笑している。めったにないクローズアップの川端康成の瞳が何かを見据えている……記憶にある、印象的な日本の大作家の顔は、この人の手によるものがほんとうに多い。その人物こそ、「文壇の篠山紀信」こと(と勝手に命名してみたが)、写真家の林忠彦だ。 この林さん自身が、大正7(1918)年生まれで、亡くなったのが平成2(1990)年なので、映し出されているのは、主に昭和の時代に活躍した作家たち、といえるだろう。 「男性を尊敬すべし」と書いた黒板を指差す小悪魔的な有吉佐和子(以下、敬称略)や、可憐さがこぼれんばかりのうら若き瀬戸内寂聴など、美しさが目を引くものもあれば、男の色気とはこういうものかと唸らされる檀一雄、いまなら「壁ドン」してくれそうな(わからない方はググってください)ほどかっこいい、五木寛之と野坂昭
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