イメージ 食事に誘われたので支度しようと、玄関のところに掛けてある姿見を覗き込んだ。 ぼんやりとした顔の大人が立っている。 初めて鏡を見たときのことは覚えていないのだけど、見れば、ああ、自分の顔だな、と思う。でもこのときは、なんだか初めて見るような感じがして、しげしげと自分のすがたを眺めた。 前髪の下から見えている目はどろっとしていて、気が強そうな、というより、剣呑だった。その人間は、長いシャツにサルエルに麻のカーディガンを羽織って、じっとこっちを見ている。 お前は誰だ、と、鏡に向かって言い続けると、気が狂うと言うけれど、まさしく、お前は誰だ、と言いたくなるような奴だった。 しかし、その一方で、これは自分が子供の頃、こういう人間になりたいと思っていたその姿のような気もして、うーん、と頭を抱えた。 鏡の中の奴は同じように、うーん、と頭を抱えている。 20年前の自分が見たらなんて言うだろうか。