<世界70ヶ所以上で撮影された廃墟の映像で構成されている映画。圧倒的な映像美が、さまざまなイメージを喚起する> 『いのちの食べかた』(05)や『眠れぬ夜の仕事図鑑』(11)で注目されたドキュメンタリー作家ニコラウス・ゲイハルターの新作『人類遺産』は、世界70ヶ所以上で撮影された廃墟の映像で構成されている。映画には、ドーム型の巨大なホール、水没した街、炭鉱、映画館、テーマパーク、オフィス、病院、空港、寺院、教会など様々な廃墟が映し出される。 そのなかには、長崎の軍艦島や福島の立ち入りが制限されている区域など、日本人であればすぐにそれとわかる場所も含まれている。だが、この映画では、それぞれの廃墟の背景や情報は重要ではない。ゲイハルターの作品には、ナレーションや字幕、音楽などは一切なく、その解釈は観客に委ねられている。 もちろん、だからといってゲイハルターに独自のヴィジョンがないわけではない。こ