■加我君孝氏(東京大学教授・耳鼻咽喉科学) 中国の文学者として著名な林語堂は,「読書のアート」という随筆で,「絶対に読まなくてはならない本というものはないが,人生のある時期は,ぜひ読んでおかなければならない本がある。読書は結婚のようなもので運命によって決まる。誰もが読んでおくべき本に聖書があるが,読むのに適当な年齢がある」という。医学生は社会的な人格を確立する過程の青年前期にあり,この時期に読んでおくのにふさわしい古典がたくさんある。時期が異なると読後感は多いに違ったものになるだろう。筆者の科の病棟は成人から老人の耳や頭頚部癌の患者さんが多い。古典を読む人からミステリーや漫画を楽しむ人までさまざまである。「患者さんは教養豊かであるが,医学生は教養がまだ不足である」と学生にしばしば言っている。 (1)J.M.Gイタール「アヴェロンの野生児」(福村出版):1779年,フランスで野生児が発見され