この本は、一見すると科学書の読書案内である。「ドミトリーともきんす」という下宿屋に寄宿しているという設定で、著名な科学者たちが寮母のとも子、娘のきん子と語りあう。彼らの言葉をたどるストーリーの中で、彼らがどのように考えて研究していたのか、何が彼らを魅了していたのかが描かれる。登場する科学者は、朝永振一郎(物理学)、牧野富太郎(植物学)、中谷宇吉郎(物理学)、湯川秀樹(物理学)。各話の最後にはその著作の中から文章が引かれ、解説が付されている。 読書案内なのだけれども、どうもそれだけではないようだ。まずはいきなり、球面世界についての一話から始まる。理論物理学者ジョージ・ガモフの科学啓蒙書「不思議の国のトムキンス 第5話 脈動する宇宙」に想を得て書かれたというこの導入、幻想的な話に思えるかもしれないが、これは物理なのである。宇宙の曲率、収縮と膨張について書かれたというトムキンスの第5話からインス