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「それに、控除を使うためには確定申告が必要で、その確定申告に『この経費は業務のために使いました』と会社が証明する必要があります。これも非常に手間となります。会社に年間100万円もスーツを買ったから証明書にハンコを押してくれと従業員が頼んだら、会社の上司はどのように思うでしょうか。その従業員を浪費家だと思うかもしれません。また、当然ながら、会社が従業員が申告してきた経費が業務に使用されたと証明するのは難しいと思われます。何に使ったかは、本当のところは分かりにくいのです。そのため、特定支出控除は効果の少ない、使い勝手の悪すぎる仕組みとなっており、利用者がほとんど存在しないのです」 質問者のメガネ君は理解したようにうなずいたが、まだ完璧には納得していないようだ。メガネ君が口を開いた。 「解説ありがとうございます。でも、そもそもスーツを着用するのは会社が業務上で求めているからですよね」そう言って、
「特定支出控除は会社員であっても年間の『特定の支出』の合計額が、給与所得控除額の1/2を超えた場合、その超過金額について所得控除を認め税金を安くするという仕組みです。この『特定の支出』として、8項目が挙げられています。一応記憶はしていますが、正確を期すためにスマホで検索させてもらいます。私よりはGoogleさんの方が記憶力は良いですからね」 これも学生達から笑いが起こった。良い兆候だ。 「ありました。8項目とは次のようなものです。」 1.通勤費(通勤のための支出) 2.転居費(転任に伴う転居のための支出) 3.研修費(職務の遂行に直接必要な技術又は知識を習得するための研修に関する支出) 4.資格取得費(職務の遂行に直接必要な資格を取得するための支出) 5.帰宅旅費(単身赴任に伴い、赴任先と家族の居住する場所とを移動するための支出) 6.勤務必要経費(※65万円まで) イ)図書費(職務に関連
「ご質問頂いてありがとうございます。良い質問ですね」 田嶋は学生から質問が出る度に、このように伝えることにしている。質問しやすい雰囲気を作るためだ。 今の学生はSNSや就活サイトに何でも書き込む。印象が悪ければ、自分の名前が世の中にさらされかねない。 「企業に勤める会社員にも必要経費は認められています。これは『給与所得控除』という制度でして、年収によって控除される額が決まっています。国税庁のホームページに給与所得控除の計算式が掲載されているので、誰でも計算出来ます。給与所得控除とは、銀行員などのいわゆるサラリーマンに適用される控除です。所得税等の計算の基礎となる給与所得額を求める際に年間給与等収入額に応じて差し引かれるものです」 田嶋は記憶を辿りながら答える。 「個人事業主は売上から経費を差し引くことで事業所得を計算しますが、会社に勤める会社員の所得を同様の方式で求めようとすれば、スーツや
ここは採用セミナー会場の片隅だ。田嶋は採用の手伝いで訪れていた。田嶋の目の前には数十人の学生が座り真面目にメモをしている。どの学生もいわゆるリクルートスーツで固めている。男性はネイビー、女性はチャコールグレーかブラックだ。個性を感じることはない。 経団連は新卒一括採用をやめて、通年採用に切り替えるべきだと提言しているが、今までの慣習や効率性を考えると、どうしても新卒一括採用に近い運用が主になってしまう。また、新型コロナウィルス感染症拡大後は、Web上でのセミナーや面接が一般化したが、それでもリアルのセミナーや面接の方が人気はある。やはり得られる情報はWebよりもリアルの方が多いということなのだろう。 今回のセミナーは、10名ほどの学生に銀行の担当者が一人付き、質問に答えていくというオーソドックスな形態だ。採用には直接関係ないため、学生達は自由に銀行の担当者へ質問が出来る場だった。 このよう
山階が退出した会議室で田嶋は一人で天井を見上げていた。とにかく、今回は乗り切った。それだけだ。 今日も田嶋は面談後に本店に帰る。上司の伊東は、いつも遅くまで残っている。確かに忙しいのだろうが、人事部長が帰らない限りは帰らないという方が正しい。 「伊東さん。本日のご報告があります」 「何ですか、改まって。悪い話ですね」 伊東は一見話しやすいタイプだ。いつも丁寧な言葉遣いであり、顔つきは優しげだ。笑顔も時折見せる。しかし、本当は面倒に巻き込まれることを嫌う。リスクがあることは判断をしない。典型的な官僚タイプだ。 田嶋は、今回の山階との面談内容について順を追って説明した。田嶋の懸念通り、伊東は外部の組合の話が出た際に、顔つきが変わった。 「田嶋さん、その山階という行員ですが、要注意人物として人事情報に登録しましたね?」 「もちろんです」 「その人物については細心の注意を払って対応していって下さい
「山階さんが言及されたのはあくまで地方裁判所レベルの判決です。最高裁で判決が出て、初めて日本全体でのルールが決まっていくのでしょう。当行としては、現行の人事制度および労働時間管理については問題が無いと考えています。でも私は貴店の担当です。皆さんの力になりたいと考えています。山階さんは、そこまでご不満なら、人事部に何をして欲しいのですか」山階のような人物と話をする際のポイントは『裁判で決着をつける』といった対決姿勢を避けることだ。その上で、人事部側からは解決策を提示することはしない。あくまで相手側から要求させるのだ。 山階は田嶋から拒否されるだけだと思っていたのだろう。少し驚いた表情をして考え込んでいるようだった。 「私が望んでいるのは、適正な業務時間です。私一人に業務が集中している現状を解決して欲しいだけです」 「分かりました。人事部内のみならず、支店長とも協議しますが、貴店の外為課への人
「労働組合ですか」田嶋がやっと声を出す。 「そうです。私が管理監督者であることの理不尽さを教えてくれたのは、当行の労働組合の方ではなく、社外の金融機関の労働組合の方です。まだ加入はしていませんがね」 『やはり外部の労働組合だったか』田嶋は背中を冷や汗が流れたような気がした。 銀行の人事部にとって、外部の労働組合が経営に関与してくることは避けねばならないミッションの一つだ。田嶋の担当店から、外部の労働組合、通称『第二組合』へ加入した従業員が出た場合には、支店長や副支店長のみならず田嶋自身も責任を取らされる可能性がある。銀行業界で知られている外部の労働組合は、いずれも経営に対立し、支店運営を難しくする。第二組合への加入者が出た場合は、第二組合から要求が次から次へとなされる。他の従業員からも多大な不満が噴出することもある。 「外部の労働組合とは、どちらの労働組合ですか」田嶋は目を細め、少し身を乗
三井倉庫港運事件(最高裁第一小法廷平成元年12月14日)という裁判例が存在する。人事関係者か労働組合関係者ぐらいしか知らないだろう。判決の要旨は次の通りだ。 「ユニオン・ショップ協定のうち、締結組合以外の他の労働組合に加入している者及び締結組合から脱退し又は除名されたが他の労働組合に加入し又は新たな労働組合を結成した者について使用者の解雇義務を定める部分は、民法九〇条により無効である」 単純に言えば、ユニオン・ショップ協定には抜け穴があるということになる。 この最高裁の判例は、ユニオン・ショップ協定によっても「組合選択の自由及び他の労働組合の団結権」は侵害されないということ示している。そのため、ユニオン・ショップ協定のある会社が、ユニオン・ショップ協定を理由に労働者を解雇することができるのは「組合員が労働組合から脱退・除名され、かつ、他の労働組合にも属していない場合」に限られる。よって、会
ユニオン・ショップとは、会社側が、労働組合との協定であるユニオン・ショップ協定を締結し、組合員ではないものを解雇する義務を負うことを内容とする制度のことを言う。単純に言えば、ユニオン・ショップ協定というのは企業内に会社が公式に認定する唯一の労働組合を作ることになる。この協定がある場合には労働者にとって労働組合の加入・脱退が自由ではなくなる。 すなわち、労働者側にとってみれば、会社に入社すると、加入資格を満たす限り、必ず労働組合に加入しなければならなくなる。そして、労働組合を脱退したり、除名されたりした労働者を、会社は解雇しなければならなくなるため、労働者は唯一の労働組合から逃れられない。 会社に雇用される労働者にとって、労働組合への加入が、事実上強制されるのが、ユニオン・ショップなのだ。 なぜ、このような制度が出来たかというと、会社にとって「楽」であり、労働組合の幹部にとってもメリットがあ
「この通達をご存知ですよね」山階が暗い声を出す。 「これを知らない人事部担当は無能と聞きました。田嶋さんは明らかに驚いた表情をなさっていましたから、やはり知っているのでしょうね」そう言って山階は微笑んだ。先程まで田嶋の目の前にいた銀行の中で勝ち組ではなく感情的でさえない行員は消え、得体の知れない粘着質な人物が目の前にいる。 「この通達をなぜご存知なのですか」田嶋はやっとのことで口を開いた。 山階は笑顔を貼り付けたまま声を発した。 「労働組合の人から教えてもらいました」 田嶋は全てを悟った。 『外部の労働組合か。当行が外部の労働組合に狙われているということだろう。当行に第二組合が出来るかもしれないということか』 日本の大抵の銀行では従業員組合と名乗る労働組合が組織されている。この従業員組合は銀行毎に組織されており、基本的には一銀行一組合だ。田嶋の所属する帝國銀行でも一つしか組合は公式には存在
山階が示したペーパーは昔の労働省が出した通達だった。内容は次の通りだ。 都市銀行等における「管理監督者」の範囲(昭和52年2月28日基発第104号の2) (1)取締役、理事等役員を兼務する者 (2)出先機関を統轄する中央機構(本部)の組織の長で、 1. 経営者に直属する部等の組織の長(部長等) 2. 相当数の出先機関を統轄するため権限分配を必要として設けられた課又はこれに準ずる組織の長(課長等) 3. 1~2と同格以上に位置づけられている者であって、1の者を補佐して、通常当該組織の業務を総括し、かつ、1の者が事故ある場合には、その職務の全部又は相当部分を代行又は代決する権限を有する者(副部長、部次長等) (3)支店、事務所等出先機関における組織の長で、 4. 支店、事務所等出先機関の長(支店長、事務所長等) 5. 大規模の支店又は事務所における部、課等の組織の長で、上記1.2.4の者と企業
「私は、山階さんが、労働時間、休憩、休日等に関する規制の枠を超えて活動せざるを得ない重要な職務内容を有していると思います。外為は海外とのやり取りですから、時間も海外支店に合わせる必要があると思います。そして、当行は主任調査役としての山階さんに、その地位にふさわしい待遇、賃金をお支払していると思いますが」 山階が田嶋の発言を遮る。 「そんな表面的な話は要らないんですよ。この前に計算したら、私の時給はマクドナルドのアルバイトより低いんですよ。残業時間を分かっているんですか」 田嶋はまず三秒を心の中で数えた。そして、意識的にゆっくり話す。 「山階さんのご指摘の通り、長時間労働は当行にとっての大きな問題であり、人事部としても是正を目指しています。これは経営としても課題として認識しており、PCログ管理に始まり、時差勤務、在宅勤務システム、サテライトオフィス等の導入も実施してきました。さらに、全行施策
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